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社説・コラム

米印原子力協定 米追随に疑問

■記者 金崎由美

 原子力供給国グループ(NSG)の臨時総会で、日本は米印原子力協力協定について賛成を表明。総会は協定を承認した。「核拡散防止条約(NPT)に加盟しない国には原子力輸出をしない」というルールを変えることは、被爆国自らが核拡散を助長させるに等しく、核兵器廃絶を願うヒロシマ・ナガサキの訴えを無視したと言わざるを得ない。

 政府はインドへの原子力協力を認める理由として、温室効果ガスの削減に有効▽インドに国際原子力機関(IAEA)の査察が入り、透明性は上がる-などを挙げている。

 しかし、インドの電力量に占める原子力の割合はわずか3%で、協定が発効しても温室効果ガスの削減効果は限定的、と指摘される。そもそも地球温暖化と核拡散はどちらも防ぐべき課題なのに、二者択一のように見なす態度自体が核軍縮への真剣さを疑わせる。

 IAEAの査察体制も問題だ。インドが指定する原子炉だけが査察対象になり、残りには目が届かない。民生用の物資や技術を軍事用に回すことも可能だ。インドは核実験の一時停止を表明しているだけで、核兵器を放棄させる保証はないに等しい。

 米印協定はNPT体制の信頼性を突き崩しかねない。中国がパキスタンに同様の協力をする可能性も生まれ、「NPTを脱退し、二国間協定を結んだ方が得」と判断する国が相次ぐ恐れもある。

 しかし、NSGの場で日本政府が核拡散を懸念する世論をリードした形跡はない。日本が取るべき道は対米追従とインドの核保有の容認ではないはずだ。これでは唯一の被爆国としての訴えが色あせてしまう。

(2008年9月8日朝刊掲載)

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