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社説・コラム

コラム 視点 「G8下院議長 ヒロシマ体験糧に、核廃絶努力に期待」

■センター長 田城 明

 「感謝しても仕切れないくらい、感謝します」。主要国(G8)下院議長会議(議長サミット)に出席した米国のナンシー・ペロシ下院議長は、会議半ばの昼食会の席上、被爆地広島での開催を提唱し実現させた河野洋平衆院議長に対し、こう述べたという。

 会議を終えた二日夜、文書でこんな声明も残している。「広島への訪問は、戦争がもたらす破壊をまざまざと想起させてくれる。すべての国々は平和を推進し、よりよい世界を築くために緊急に取り組まなければならない」と。

 参加者にはペロシ氏のほかにも、核保有国のロシア、英国、フランスの議長も含まれていた。が、メディアの関心は、原爆投下国であり、今も世界に最も大きな影響を及ぼしている米国の政界ナンバー3の要職にあるペロシ氏に集まった。

 原爆資料館を見学し、被爆者の高橋昭博さん(77)の体験を聞いているとき、テレビカメラでクローズアップされた彼女の表情。心の微妙な変化を映し出したその表情は、一人の人間としての顔であった。彼女が次世代を担う子や孫の未来に思いをはせるとき、「多数の米兵や日本人の命を救うために原爆投下は正しかった」とは決して考えないだろう。

 カーター元米大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領ら著名な政治指導者をはじめ、青年や子どもたちに至るまで、海外から被爆地を訪れた数え切れない人々に、「ヒロシマ」は大きな影響を与えてきた。

 一発の原爆による想像を絶する破壊とその後に続く放射線の影響。多くの苦しみや憎しみを克服し、同じ過ちを世界のどこにおいても繰り返してはならないと声を挙げる被爆者。憎悪や暴力でなく、和解と平和のメッセージを伝える広島市民の心に触れるとき、人々の心は突き動かされるのだ。廃虚から美しい都市を再建したその過程に希望を見いだす人もいる。むろん、それは外国人だけに限ったことではない。

 非公開で行われた会議では、グルジア情勢などをめぐってロシアと欧米諸国の間で意見が対立したという。だが、どれほど利害が対立しても、被爆地で交渉する限り、軍事力優先ではなく、平和的な解決法を見いだそうと努力するに違いない。

 実質一日半ほどの広島滞在であったが、広島で議長サミットが開かれたことの意義は大きい。参加者たちには帰国後、広島での体験を生かして、核軍縮・世界平和のためにしっかり働いてもらいたい。

 次は米ロをはじめ、各国首脳たちの広島訪問を呼び掛けたい。できれば、平和記念公園内の広島国際会議場で二国間、あるいは多国間の核軍縮・平和会議を実現させたい。交渉の場に、これ以上にふさわしい舞台はないのだから。

(2008年9月8日朝刊掲載)

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