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社説・コラム

社説 空自イラク撤収 支援の検証が不可欠だ

 イラクで空輸活動を続ける航空自衛隊の部隊が年内に撤収する。派遣をめぐって国論が二分され、司法の「違憲判断」も出ていた。引き揚げるのは当然だろう。そもそもイラクへの自衛隊派遣は平和国家にふさわしい貢献策だったのか、本当に復興に役立ったのか。徹底的な検証が必要だ。

 撤収の理由について、政府はイラク国内の治安が回復傾向にあり、多国籍軍の駐留根拠である国連決議の期限が年末で切れることを挙げる。ブッシュ米大統領も駐留米軍8000人の削減方針を示し、各国軍の撤退も相次いでいる。今回の政府判断はそうした流れに沿ったといえる。

 空輸活動は、イラク復興支援特別措置法に基づき2004年に開始。隣国のクウェートを拠点に、当初はサマワ駐留の陸上自衛隊へ物資を輸送した。現在はバグダッド空港などに多国籍軍兵士や国連関係者、物資を運んでいる。

 空輸の回数や量などの情報は公表されてきたものの、中身や目的についてはほとんど明らかにされていない。軍事作戦に加担しているのではないか、といった疑問や批判が出ていたのはこのためだ。

 今年4月に、イラク派遣をめぐる裁判で名古屋高裁が違憲判断を示した。バグダッドは特措法が認めていない「戦闘地域」にあたるとしたうえで、武装兵士の空輸は自ら武力行使したことと同じ行為であるとして、憲法9条に違反するとした。

 政府は従来、武力行使を伴う多国籍軍には参加できないとの立場を堅持してきた。しかし当時の小泉政権は国会で十分な議論のないまま自衛隊派遣を強行した。憲法に照らし合わせて無理はなかったか。陸自のサマワ派遣について「自衛隊が活動する地域が非戦闘地域だ」と小泉純一郎首相が強弁せざるを得なかったことに、問題の本質が表れていたように思える。

 フセイン政権は崩壊したが、米英が主張していた大量破壊兵器は見つからなかった。米中枢同時テロを実行した国際テロ組織のアルカイダと関係ないことも確認された。一貫して米国のイラク政策に追従してきたことに間違いはなかったのか、政府は国民が納得できるような説明をするべきだ。

 米国は今後、アフガニスタンを中心としたテロ対策に軸足を移すことになりそうだ。それに伴い日本政府は、インド洋での海上自衛隊による給油継続を目指している。ただ、来年1月に期限が切れる新テロ対策特別措置法の延長に対し、参院で多数を占める野党が強く反対。自民党と連立を組む公明党は衆院での再議決に慎重姿勢を示すなど先行きは不透明だ。

 11月にも予想される衆院選では、給油継続が争点になるのは間違いない。政府は「国際社会の一員として継続を」と主張するが、それしか国際貢献の手だてはないのか。国民的な議論を深めることが政治に求められている。そのためにはまず、イラクでの自衛隊の活動を速やかに検証し、功罪を明らかにすることが不可欠だ。

(2008年9月13日朝刊掲載)

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