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社説・コラム

コラム 視点 「核兵器廃絶具現化へ なお必要な多くの努力」

■センター長 田城 明

   核兵器のない平和な21世紀の到来を願った世界の多くの市民。だが、8年後の現在、私たちは核兵器廃絶の道を歩むのか、それとも核保有の永続・拡散の道をたどり、核戦争を招来するのか、重大な岐路に立っている。

 この間、核軍縮は停滞し、核拡散のみが進行した。今、人々が一番恐れるのは、闇ルートを通じての核兵器や兵器用核物質のイスラム武装グループへの流出である。それは単なる懸念ではなく、現実のものとして語られるようになった。

 キッシンジャー元国務長官ら米元高官四氏の「核兵器廃絶」提言の根底にあるのは、テロリストによる核攻撃への強い危機感だ。欧米を中心に、核保有国などの政治指導者がキッシンジャー氏らの呼びかけに呼応するのも、同じ危機感と不安を共有するからである。

 「大幅な核軍縮なしに核拡散は止まらない」「核抑止力で、核テロ攻撃は防ぎ得ない」「核兵器の廃絶こそが核戦争を防ぐ唯一の道」。被爆地広島・長崎が訴え続けてきたことが、国際世論としてここ1、2年急速に高まってきたことは間違いない。しかし、その背景には核戦争、とりわけ核テロ攻撃の可能性が強まった点が挙げられる。核兵器廃絶世論の高まりというこの好機を逃せば、逆に核戦争は避けがたいものになるだろう。

 核保有国の核軍縮を促進させたり、潜在核保有国の核兵器開発を断念させたりするには、国際世論をバックにした圧力と同時に、関係諸国の信頼醸成が欠かせない。相手国によって核政策を変える二重基準のアプローチも矛盾を増幅するだけである。

 ところが、ここにきてこうした問題が顕在化してきた。米ミサイル防衛(MD)の東欧配備やグルジアをめぐって深まる米ロの対立。核拡散防止条約(NPT)の根底を揺るがす、原子力供給国グループ(NSG)によるNPT非加盟のインドと米国との原子力協力協定の承認。北朝鮮の核施設復元への動き…。

 核兵器廃絶への期待は膨らんでも、それをいかに具現化するか。確かな道が開けてくるまでにはなお、障壁を越えるための多くの努力が求められる。核保有国の市民をはじめ、核廃絶を求める世界中の人々、非政府組織(NGO)、国家の協力が欠かせない。核戦争の惨禍を知る広島・長崎はその「要」となるであろう。被爆国の日本政府の責任も重い。

 約8年間続いたブッシュ政権は、人類の未来に明るい希望をもたらさなかった。その外交・軍事政策は大多数の米国民からも「失敗だった」と評価されている。核超大国の次期大統領には、公約に掲げた「核兵器廃絶」という目標を単なるリップサービスに終わらせてもらっては困るのだ。強いリーダーシップを発揮して、政策に必ず反映してもらわねばならない。

(2008年9月22日朝刊掲載)

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