×

社説・コラム

社説 原子力空母配備 不安は解消されてない

 米原子力空母ジョージ・ワシントン(約9万7000トン)が9月25日、神奈川県の横須賀港に配備された。エンタープライズの長崎・佐世保基地への初寄港から40年。原子力空母の日本母港化は初めてである。

 全長約330メートル、戦艦大和の約260メートルを上回り、約5600人の乗組員が生活するジョージ・ワシントンは、米本土以外を拠点とする唯一の原子力空母になる。アジアからインド洋を担当する第7艦隊に所属。軍備増強を進める中国をにらみ、不安定な情勢が続くアフガニスタンやイラクなどへの出動も視野にいれた活動が予想される。

 数日立ち寄って物資を補給する寄港と違って、配備は滞在が長期にわたる。小規模の原発に匹敵する加圧水型原子炉を2基備えているだけに、人口の密集する首都圏の一角に原発が引っ越してくるようなものである。

 民間団体の原子力資料情報室は、原子炉溶融事故が起きれば、がんの死者が20万-30万人規模で出ると予想している。横須賀市はジョージ・ワシントン配備に備えて、基地周辺の放射線を測定する地点を4カ所から10カ所に増やした。当然のことである。

 米海軍は「原子力艦船はこれまで長年、原子炉事故を起こしていない」と強調。日本政府も一貫して安全性を強調する。だが、この安全性に疑問を投げかける状況が相次ぎ、市民の不安は解消されていない。

 ジョージ・ワシントンは、5月に南米沖の太平洋上で火災が発生。鎮火までに約半日かかり、高熱で鉄製の内壁が溶けたり、ゆがみが生じたりするなど大きな損傷があった。火災は規則違反の喫煙などが原因だった。このため、配備が当初予定より1カ月遅れた。

 さらに8月には、日本に寄港した米原潜ヒューストンが2年間にわたって微量の放射能漏れをしていたことが発覚。しかも、外務省は米側から連絡を受けながら、地方自治体などにすぐ通知しなかった。外務省の隠ぺい体質が露呈された形である。

 特定非営利活動法人(NPO法人)ピースデポのまとめでは、このほかにも1980年以降、米原子力艦船から放射能が漏れるような事故が9件も起きているという。米側の情報や報告だけをうのみにできない。

 だが、「軍事機密」が壁となって、日本側が立ち入り検査すらできないのが現状だ。配備を受け入れざるを得ないのなら、米側のさらなる情報開示と安全性確保は欠かせない。住民の不安解消には、放射能事故防止について安全性を検証できる仕組みが必要だろう。

 原子力空母の横須賀配備は、在日米軍再編の中で2014年に予定されている米海兵隊岩国基地への艦載機移転が一歩進んだことを意味する。移転が米海軍厚木基地(神奈川県)の騒音低減を目的に持ち上がったからだ。それだけに岩国市だけでなく、被爆地広島にとっても看過できない。

(2008年9月26日朝刊掲載)

関連記事
艦載機 岩国移転が加速 (08年10月3日)

年別アーカイブ