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社説・コラム

「世界子どもサミット」期待と提言 未来・平和 語り合おう

■記者 馬上稔子

 広島に世界から若者が集まり、平和をテーマに議論する-。9月に広島市で開かれた主要国(G8)下院議長会議(議長サミット)で、各国の議長たちは「子どもサミット」の広島開催を提案した。今後、広島市が実現に向けて動きだす。

この「世界子どもサミット」開催は、子どもたちの提案から生まれた。中国新聞の定期連載「ひろしま国 10代がつくる平和新聞」のジュニアライターが3月、東京で河野洋平衆院議長にG8議長サミットについてインタビュー。その時「子どもサミット」のアイデアを伝えた。

 その後、ジュニアライターは議長サミットに参加する各国の議長にもこの提案を投げかけた。これに対し「どのように平和を達成できるのか、視点を交換するためにも他の国の子どもたちに会うことは大切」(カナダ)「子どもサミットの成果は国家指導者にとっても重要なものになるだろう」(ロシア)など、全議長から賛同の声が寄せられていた。

 そして議長サミット当日(9月2日)、昼食会で河野議長が参加議長に「子どもサミットを今回の議長サミットが産んだ卵としてはどうか。卵がかえってひよこになったときにはどんなエサを与えるか広島市長に考えていただこう」と提案。会議後の記者会見で「議長サミットの成果の一つ」として発表した。

 では、被爆地で開くこの子どもサミットをどんな内容にしたらいいのか。国際会議などに参加経験のある学生や、有識者たちに聞いた。

自国で成果報告会を
NPO法人ルワンダの教育を考える会副理事長
カンベンガ・マリールイズさん(43)=福島市

 「平和な日常が奪われたらどうなるか、平和を維持するためにどうするか」を議論してほしい。私自身、ルワンダ内戦を体験するまで、生活が一変するようなことが起こるとは思ってもみなかった。そうなったときを想像することで、普通に暮らせる幸せ、平和の大切さを感じられる。

 これまでの大人のサミットは莫大(ばくだい)な費用をかけながら、ただのお祭りで終わっている。子どもサミットはそうであってほしくない。

 そのためには広島で話し合ったことを自国に持ち帰り、政府や地域住民に報告する機会を設けることが大切。そして次のサミットでそれぞれの政府が子どもサミットの提言でどう変わったかを再び広島に持ち寄って議論する。そんなところまでやってほしい。

多言語の通訳が必要
J8(ジュニア・エイト)サミット日本代表高校生
栗脇志郎さん(17)=東京都

 高校生を40人前後集めて開く。議論を深めるのにちょうどいい年齢であり、規模だ。参加者が多すぎると全く会話しない人がいたり、発言しない人が出たりする。お互いに一人一人と、最低一度は話をした方がいい。

 せっかくの機会なので、いろいろな地域の子どもの考え方を知り合うべきだ。そのために、いろんな言語の通訳を用意する。外国語で話すより、自国語で語った方が議論の内容は格段に濃くなる。

 大人は会議に参加しない方がいいが、子どもだけだと議論が進まないかもしれない。そこで、大人と子どもの中間ともいえる大学生が手伝ってはどうか。

 気をつけるべきなのは、短期間に観光などのプログラムを詰め込み過ぎないこと。議論自体に時間をかけたい。

原爆の恐怖を学んで
ベトナム人留学生
ファーム・ティ・クウィーン・チャンさん(17)=広島市安芸区

 今年4月、ハノイから広島女学院高に留学した。それ以前は広島に原爆が落とされたという事実は知っていたけど、それだけだった。本川小の平和資料館を訪れたときに感じた寒気は忘れられない。感性豊かな若いときに原爆ドームや原爆資料館を見学して核兵器のパワーと恐ろしさを肌で感じることは大事だ。

 世界は平和ではない。被爆者もいるし、ベトナムには枯れ葉剤の後遺症に苦しむ人もいる。私の叔母は36歳だが、枯れ葉剤のために知能は4歳くらい。いろんな場所で平和でないことによる被害者が出ている。参加者はそれぞれの現実を報告し合い、お互いの痛みを理解する。

 そんな子どもサミットを定期的に開いて実績を重ね、将来は広島に平和を学べる大学ができるとすてきだ。

ブログを使って発信
チルドレンズ・エクスプレス記者
藤原沙来さん(18)=川崎市

 世界中の子どもが考える機会にしてほしい。開催中だけでなく準備期間や開催後の報告会の様子などをブログで随時発信してはどうか。ブログだと感じたことを素直に書けるという人は多い。同世代の感性に触れ、それを読んだ参加者以外の意識も高まる。

 議論だけでなく何かをつくり出すことも大切。セルビアで今年開かれた「国際青少年メディアサミット」に参加した際、テーマごとに自分たちの提言を1分間の映像にまとめた。原稿や編集をめぐり意見がぶつかり合ったが、お互いを分かり合えた。何かをつくり出す目的があれば、子どもだけでもユニークなものができる。共同宣言でもいい。

 自国の友人の間や学校での活動を広げるツールになると面白い。

「地球市民」意識持とう
ピースボート共同代表
川崎哲さん(39)=川崎市

 「地球市民」の意識を持てるサミットにしたい。国の代表ではなく「地球のここから来ました」と自己紹介するような。国として認められていない台湾やパレスチナなどからも招くことが必要。国家でないにしても、重要な地域だからだ。

 発展途上国からも同じ人数を集め、貧困や環境問題など国際社会が抱える問題と世界の軍事費の関係について議論してほしい。せっかくの「子どもサミット」のアイデアを国際交流で終わらせず、実のある会議にしたい。

 非政府組織(NGO)が国境を超えて連携する支援組織をつくってはどうか。各国の子どもを集めたり、運営に協力したりする。時期が合えば、世界中を航海するピースボートで子どもを広島に連れてくることもできる。

大人の価値観排して
児童文学作家
那須正幹さん(66)=防府市

 重要なのは、子どもたちが自由に議論できること。大人が打ち出すのは「平和」という枠組みだけでいい。

 財政面や通訳など、大人が手を貸さなければいけないところはあるだろうが、基本的には、子どもたち自身が何を話し合うのか、どんなイベントをするのかを考えて実行する。「対立するかもしれないから宗教問題をテーマにするのはやめよう」など、大人の価値観を持ち込まない。自由に、建設的に議論してほしい。

 参加者は小学生から中学生くらいが適当ではないか。高校生だと自国の利害を踏まえたり、大人の意を推測して発言したりすることも考えられる。また「自分の国を背負って来ている」などと負担を感じないようにすることも大事だ。

テーマに「食」や「水」
詩人
アーサー・ビナードさん(41)=東京都

 戦争の火種になりかねない「食」や「水」をテーマにしてはどうか。一番身近で大切なものから平和を考えることができる。

 原爆被害を避ける必要はないが、広島に集まれば自然と学べる。それよりも例えば、広島のお好み焼きに使われている原材料について調べる。小麦粉はどこから輸入されているのか、卵を産む鶏の飼料は…と突き詰めていくと、世界の食料がつながっていることが分かる。子どもたちは自分の生活が国ごとに独立して成り立っているのではなく、共同体なのだと気づく。

 最後に「平和のレシピ」を発表する。問題解決のために、これが必要だという内容。政府に具体的な注文をつけることも必要だ。それを次の大人のサミットに突きつけるのだ。

(2008年10月6日朝刊掲載)

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