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社説・コラム

原爆ドーム上空で黒色花火 蔡國強さんに聞く

■記者 西村文

 第7回ヒロシマ賞を受賞した中国人現代美術作家の蔡國強さん(50)が25日、広島市中区の原爆ドーム後方上空に、黒色の花火を打ち上げるプロジェクトを行った。原爆のさく裂をも想起させる表現に、「平和の重さを感じさせる」との一方で「不気味な印象を受けた」と戸惑いの声もあった。花火を打ち上げる前に行ったインタビューで、蔡さんが表現に込めた思いを語った。

 太陽が輝く平和な空でいきなり爆発が起こり、犠牲者が出る。しばらくすると、何事もなかったように人々は日常生活に戻る。それが私の21世紀の戦争のイメージだ。これまでにも(爆破テロのあった)スペインとニューヨークで黒煙を打ち上げた。

 なぜ黒煙なのか。晴れた空に漂う黒煙は詩的で悲しみを感じさせる。作品の深いところには、鎮魂と希望のメッセージがある。火薬は破壊に使われるが、美しいアートにもなる。1人のアーティストが(破壊に使われるものを)美に変えることができるのであれば人類全体でもっと大きなことができる。それは、人類にとっての希望である。

 今回、ヒロシマ賞に決まって感動した。私のアートが広島で評価されるのは難しいと思ったから。火薬を使った爆発が平和を意味する-ということは逆説的だからだ。

 このほどニューヨークのグッゲンハイム美術館で、車8台が爆発して飛んでいくイメージの作品を展示した。作品の善し悪しではなく、大きな関心を集め、記録的な来場者があった。

 テロは悪いことだが、それを題材にして美しい作品が生まれる矛盾を前に、観客は恐怖を感じたり考えたりするだろう。アートの魅力は、そんな、表現の「臨界点」にある。

 被爆者に対する悲しみは万国共通なので、自由に表現できる余地は少ない。だがアーティストとして、人類の悲劇と無関係ではいられない。被爆者の理解を得ながらどこまでアートの限界を追求するのか。難しさを分かりながらチャレンジしている。

 1994年に広島市中区の中央公園で、原爆による核反応をテーマに、火薬を使った野外プロジェクトを行った。その前に広島を何度も訪れ、原爆について学んだ。その後、ネバダの核実験場など全米各地で、小さな白煙の「きのこ雲」を上げるプロジェクトを行った。それらは私の代表作になった。ヒロシマは私にとって、創作の一つの出発点となっている。

 平和記念公園(中区)で花火の打ち上げを見守った蔡さんは「広島の過去、現在の人々とのコラボレーションによって美しい作品になった。100人が100人、同じ見方はあり得ないと思うが、自分のやっていることと、人々の理解力を信じなければならない」と述べた。

 ツァイ・グオチャン 1957年、中国福建省生まれ。上海演劇大美術学部に学ぶ。86年から9年間、日本に滞在。95年からニューヨーク在住。99年ベネチア・ビエンナーレ国際金獅子賞受賞。今夏の北京五輪で視覚芸術ディレクターを務めた。

(2008年10月29日朝刊掲載)

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