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社説・コラム

社説 ロシア原潜事故 放射能漏れは大丈夫か

 日本海を航行中のロシア原子力潜水艦で8日、乗員ら20人が死亡する事故が起きた。「放射能汚染はない」とロシア側はいうが、安心できるだけの情報などを示してもらわなければなるまい。

 原潜は、核弾頭ミサイルを搭載しないタイプとみられる。航行試験中だったという。乗員らは、消火装置の誤作動で噴き出したフロンガスを吸い、中毒を起こしたか酸欠状態になったようだ。人為ミスの疑いも指摘されている。

 艦自体に損傷はなく、原子炉も正常に稼働していて、放射能漏れはない-との説明だ。自力でウラジオストク近郊の太平洋艦隊基地に帰り着いたという。

 旧ソ連時代から、原潜事故は軍事機密を盾に、隠ぺいされることが多かった。それだけに今回、速やかな公表に踏み切ったことは評価できよう。

 ただ、詳しい被害状況や事故を起こした場所さえ、公式に明らかにされていない。いくら放射能漏れはないと強調されても、これでは到底、不安は解消できない。

 放射能調査をしたのか、その結果はどうだったのか-なども分かっていない。日本政府が詳しい情報開示を求めたのは当然だ。

 事故から見えてくるのは、ロシアの国内事情と、国際的な軍事情勢である。

 今回の原潜は1991年に建造が始まったが、財政難で中断。最近やっと完成したと伝えられる。軍事力復活を描くロシアの国家戦略に沿ったものだろう。

 ただ、経済復興で軍事費は増えたものの、長く給料未払いが続いた軍内部の士気低下は、今も深刻といわれる。とんでもないミスが起きる可能性も否定できない。

 世界の海を原潜が航行していることも、あらためて浮き彫りになった。米ロなど各国が保有している原潜の数は140隻以上だ。

 「動く原発」と呼ばれるように、原子炉の爆発や破損が起きると、海洋など環境にも重大な放射能汚染を引き起こしかねない。85年にウラジオストク近郊で起きた原潜爆発事故では、消火に当たった350人が被曝(ひばく)、40人以上が死亡したと伝えられている。

 日本でも、佐世保などに寄港した米原潜が2年間にわたって、微量の放射能漏れを放置していたことが発覚したばかりだ。周辺海域では、中国原潜の活動も目立っている。

 ロシアと米欧が対立する「新冷戦」が懸念されている。核軍縮とともに、核を搭載しない原潜を含めた通常兵器の削減にも積極的に取り組みたい。

(2008年11月11日朝刊掲載)

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