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社説・コラム

コラム 視点 「広島に希望見いだす紛争地の市民」 

■センター長 田城 明   

 イラク、アフガニスタン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ルワンダ、コンゴ…。今なお戦乱が続いたり、内戦終結から復興への一歩を踏み出したばかりの国々。こうした紛争地から被爆地を訪れた人々は、よく「広島は私たちにとって希望の地である」と言う。

 彼らは原爆資料館などを見学して、一瞬にして都市全体が壊滅した広島の惨状に触れる。と同時に、廃虚から近代的な都市を再建した街並みに、希望を見いだすのだ。「平和を希求し、みんなが力を合わせて再建に取り組めば、町や村、国の復興は可能だ」との思いである。

 「希望の地」であるのは、都市が再建されたという物理的な理由だけではない。戦争が人々にもたらす苦しみ、悲しみを、訪問者と被爆者ら広島市民が共有するからでもある。

 「憎しみで憎しみを消し去ることはできない」と、ある被爆者は自らの体験からしみじみと語る。「戦争」という暴力は憎悪をはぐくみ、憎悪は暴力を再生する。

 人類の終末をも暗示する核戦争の惨禍を体験したからこそ、多くの被爆者は憎しみや悲しみを乗り越え、あるいは胸の内に封印して「ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒロシマ」の切実な思いを伝える。それを聞いた彼らが、暴力ではなく、平和に生きる決意を新たにする。

 「ヒロシマ」が持つこうした有形、無形の影響力。私は自らの取材を通じてそんな場面に何度も出くわしてきた。

 2003年以来、広島県と広島市が財政援助をし、04年を除き毎年続けてきた国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所主催の「アフガニスタン奨学プロジェクト」もその一つだ。アフガニスタンの政府役人や学者、非政府組織(NGO)関係者ら20数名の社会的リーダーたちを、8カ月間にわたるプロジェクトの最後に約1週間広島に招き、まとめの研修を実施する。

 被爆地での研修には、参加者が単に技術や知識を習得するだけでなく、核兵器廃絶と平和実現への強い意志、そして「希望」をも持ち帰ってほしいとの願いが込められている。ユニタール広島事務所長のナスリーン・アジミさんは「被爆地だからこそ得られる貴重な体験」と、確かな手応えを感じている。

 この種の活動は、特効薬のように効果がすぐに表れるわけではない。しかし、こうした地道な取り組みこそ、広島のかけがえのない財産として大きく育てたいものである。

(2008年12月1日朝刊掲載) 

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