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社説・コラム

仏女優リバさん トークショーで思い語る 被爆の重み 今も胸に

■記者 守田靖

 日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール(邦題『二十四時間の情事』)」出演の際、広島市内を撮影していた主演女優エマニュエル・リバさんの写真展が幕を閉じた。広島市中区の県立美術館講堂であったトークショーも含め、ヒロシマを問うことの重みと新しさ、復興期の活力と、それを収めた写真の力を再認識させる貴重な機会となった。

 札幌市や東京都からも人が訪れ、約100人の入場を断るほどの熱気であふれたトークショー。50年ぶりに広島市を訪れたリバさんが思い出を語った。和やかだった会場が静まりかえったのは、彼女が「私は広島で心を引き裂かれる思いをした。それは写真に撮っていません」と語った瞬間だった。

 映画「ヒロシマ・モナムール」の主題は、ヒロシマについて他者が語ることの不可能性だ。「きみはヒロシマで何も見なかった」というせりふが何度となく繰り返される。生身のリバさんも映画の役柄同様、「伝えきることができない」との思いを抱え、50年前の広島をさまよっていたことを告白した。映画の主題が重なり合うと同時に、被爆の重みを彼女が今も抱えていたこともまた明らかになった。

 トークショーには、映画製作で重要なスクリプター(記録係)を務めたシルベット・ボドロさん、作家で映画批評家のドミニク・ノゲーズさん、元東京日仏学院長のマリ・クリスチーヌ・ド・ナバセルさん、多摩美術大教授の港千尋さんも参加。「モナムール」が、映画運動「ヌーベルバーグ(新しい波)」など映画史に与えた多大な影響に言及した。

 中でも、ノゲーズさんは「ヒロシマと、モナムール(愛する人)という、世界中の誰もが知っている、サイズの違う2つのものが結び合わされているところにこの映画のすごさ、永遠の新しさがある」などと指摘。原爆投下という「国家」による非道の行為を、広島の地で交わされる男女の愛という「個人」的体験を通して浮かび上がらせた女性劇作家マルグリット・デュラスの脚本の斬新さと、監督アラン・レネの映像の先進性をたたえた。

 今回、多くの市民が写真に懐かしそうに見入り、復興期の思いを新たにした。写真は、それを基に人が集い、当時を語り起こすきっかけにもなる。リバさんは「だから写真を撮っておかなくちゃだめなのよ」と冗談めかして語ったが、写真の力を再認識させる貴重な機会になった。

 だからこそ、未曾有の体験から復興した市民の生活を収めた写真を一堂に集め、立ち返ることのできる場所(映像センターのようなもの)をつくる必要があるのではないか。忘れてはいけないものを伝えようと奔走した多くの人たちの思いを次につなげるためにも。

(2008年12月12日朝刊掲載)

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