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社説・コラム

社説 イラクから航空自衛隊撤収 実態の検証欠かせない

 イラクで人や物資を運んでいた航空自衛隊の派遣部隊が撤収を始めた。是非をめぐって国論を二分した、初の自衛隊の「戦地」派遣が約5年で終結となる。その功罪を冷静に総括すべきである。

 特に、武装兵士を運んだ空自の活動は「憲法九条に違反する」との判断を名古屋高裁が今年春に示している。憲法の枠から外れていなかったか、実態を徹底的に検証することが不可欠だろう。

 政府が撤収を決めたのは、多国籍軍の駐留根拠となる国連決議の期限が年内で切れるためだ。各国の部隊も相次ぎ撤退している。

 自衛隊の派遣は、イラク復興支援特別措置法に基づき2004年に始まった。まず陸上自衛隊が、南部サマワで医療指導や給水活動などに当たった。

 空自は当初、クウェートを拠点にサマワ近郊に物資を空輸していた。しかし2006年7月の陸自撤収後は、首都バグダッドなどにエリアを拡大。これまでに多国籍軍兵士や国連の要員約4万6500人と物資約673トンを運んだ。

 3万人を超す多国籍軍兵士の多くは武装した米兵だったようだ。特措法では武器や弾薬の輸送を禁じているが、現場では一つ一つ中身を確認していたわけではないという。実際に何を運んでいたか、疑問が出るのも当然だろう。

 空自が兵士を運んだバグダッドは最近まで、多国籍軍による武装勢力掃討が繰り返され、死傷者が多く出ていた。特措法が自衛隊の活動を認めていない「戦闘地域」と、名古屋高裁が考えたのも無理はない。違憲判断につながった。

 そもそもイラク戦争は、フランスやドイツなど国際社会の反対・慎重意見を振り切って米国と英国が始めた。真っ先に支持したのが当時の小泉純一郎首相だった。

 しかし、米英が開戦の大義とした大量破壊兵器があるという情報自体が間違っていた。2001年の「米中枢同時テロ」の首謀者とされる国際テロ組織のアルカイダとの関係もなかった。

 情報の誤りが任期中最大の痛恨事と、ブッシュ大統領自ら認めている。なのに、日本政府は「開戦を支持した当時の判断は正しかった」との姿勢を変えていない。自主的に判断したと強弁するが、筋が通らない。

 さらに自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法づくりを急ぐ動きもある。いつまでも、米国の言いなりになって憲法をないがしろにし、自衛隊の役割を拡大し続けて、いいのだろうか。

 終わったことではない。オバマ米次期大統領は対テロ戦争の軸足をアフガニスタンに移す考えである。継続の決まった海上自衛隊によるインド洋での給油活動に加えアフガン本土への派遣など新たな協力を求めてくる可能性がある。

 日本ができる国際貢献は何か。戦闘に加われなくても、教育や医療、インフラ整備などに技術や人材を生かすことは可能だろう。その場しのぎではない対応を練り上げるためにも、国民的な論議を深める必要がある。

(2008年12月17日朝刊掲載)

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