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社説・コラム

パレスチナ難民の「大惨劇」伝え続けたい ローズマリー・サーイグさん

■記者 桑島美帆

 「パレスチナ難民は祖国を奪われただけでなく、仕事も人権も、そして将来も奪われたままだ」。1948年のイスラエル建国で、80万-100万人のパレスチナ人が強制的に故郷を追われた「ナクバ(大惨劇)」から60周年を記念し、今月、広島市内で講演した。

 70年代からレバノンの難民キャンプやイスラエル、パレスチナ自治区などを訪ね、パレスチナ難民の体験談を集めた。2冊の本にまとめ、ウェブサイトでも紹介している。

 ロンドン近郊の中流家庭で「中東問題とは全く無縁」な環境で育った。経済学者だったパレスチナ人の夫と結婚したのを機に53年、ベイルートへ移住。67年の第三次中東戦争でイスラエルの「横暴ぶり」に疑問を抱き、パレスチナ難民の「体験」を掘り起こそうと、夫の親族に話を聞くことから始めた。

 パレスチナ難民の数は現在約462万人。「一人一人が背負う苦難は異なる。だが、米メディアが世界を席巻し、パレスチナ問題は一面的な報道に終始している」。27日からパレスチナ自治区のガザで始まったイスラエル軍の空爆では、370人以上*が殺された。

 「ナクバは終わっていない。被爆者の声が核兵器廃絶への願いにつながったように、パレスチナ難民の証言を伝え続けることが必要だ」。初めての広島は、2泊3日の滞在だったが、原爆資料館の見学や被爆者との交流会にも参加した。毎日ウオーキングを欠かさず、冬でも毎週、温水プールで泳ぐ。2004年に夫が他界。ベイルートで一人で暮らす。

(2008年12月31日朝刊掲載)

*死者数は2009年1月7日現在、670人を超えている。

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