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社説・コラム

社説 核兵器なき世界 被爆地からのうねりを

 あと何年、被爆者たちが体験を語ることができるだろうか。被爆者は24万3000人余り。1年前に比べて約8000人減った。平均年齢は既に75歳を超えている。

 ここに来て、核兵器のない世界を訴えてきた被爆者の期待が膨らんでいる。核兵器廃絶を掲げるオバマ氏が今月20日、米国大統領に就任するからだ。

 米国は核兵器のない世界を追求する-。オバマ氏はこう明言している。核兵器全廃を目指す科学者の国際組織「パグウォッシュ会議」のメンバーでもあるホルドレン氏の科学技術担当補佐官への起用も、その表れだろう。

 次期政権が一刻も早く取り組まなければいけない課題は、1996年に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准だ。米国や中国、インド、イランなど9カ国が未批准のため、いまだに発効の見通しは立っていない。

 核超大国の米国が批准すれば、波及効果も大きい。核戦力を増強しているとされる中国なども、前向きな姿勢を示すのではないか。

 ただ、米政権交代で核軍縮が進むと見るのは、楽観的すぎるとの指摘もある。オバマ氏は「核兵器が存在する限り、強い核抑止力を保持する」との考えを示している。ブッシュ政権で核兵器開発推進の立場にあったゲーツ国防長官が留任することも気掛かりだ。

 米ミサイル防衛(MD)の東欧配備やグルジアをめぐって、昨年は米国とロシアの対立が厳しさを増した。米ロの核軍縮交渉の行方は不透明で、新たな冷戦の懸念もぬぐえない。

 被爆国である日本はどうか。政府は国連総会に毎年、核兵器全面的廃絶決議案を提出してきた。その一方で、米国の核の傘に依存してきたのは紛れもない事実だ。米頼みの政策を変えさせる取り組みも必要である。

 それだけに、被爆地からの行動が、ますます重みを増していると言えよう。

 広島、長崎両市が呼び掛ける平和市長会議に加盟する都市は、133カ国の2500を超え、1年間で約500増えた。対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約が実現したように、都市や市民が立ち上がれば、国際世論を動かすことも不可能ではあるまい。

 昨年9月、広島市であった主要国下院議長会議には、米ロなど核保有国も参加した。原爆被害の一端に触れた意義は大きかったはずだ。来年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の広島誘致が実現すれば、各国首脳に核兵器の非人道性を訴える好機になろう。

 来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を前に、核軍縮・不拡散に向けた動きも高まりそうだ。被爆者団体や非政府組織(NGO)とどこまで連携できるか。日本政府の対応が問われる。

 「いろいろな手段で核被害の悲惨さを発信し、核兵器廃絶へ世界の世論を導くことが被爆地の役割だ」。広島県被団協の坪井直理事長の言葉だ。ヒロシマからのうねりを着実に広げていきたい。

(2009年1月5日朝刊掲載)

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