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社説・コラム

天風録 「生きていれば、考える」

■論説委員 石田信夫

 10歳の少女からこんな言葉を聞いたら、びっくりするだろう。「朝、目がさめて生きていれば、その日何をするかを考える」。いつ死ぬかもしれないから将来のことなんか考えられない、というのだ▲パレスチナ自治区ガザでジャーナリスト藤原亮司さん(41)が聞き、4年前に本紙に寄稿している。イスラエルからさまざまな破壊を受けてきたガザ。子どもたちの乾ききった絶望感に、心が冷える思いがした▲ガザがまた攻撃されている。年末に始まった空爆以来、子どもを含めて約700人が死亡したという。藤原さんには、以前泊めてもらった11人家族の7人が亡くなった知らせも届いた。「大人も子どもも家の中で息を潜めている。緊張と恐怖は限界にきている」▲ガザ地区は逃げ場のない収容所のように見える。150万人が住む密集地は、高い塀で囲まれて、自由な出入りも許されない。そこに空から、海から、さらに陸の戦車部隊からも爆撃が加えられたら…▲かつてナチスに追われたアンネ・フランクは、隠れ家での日々に疲れて「今では自分の生死がどうなろうと気にならない境地になった」と、日記につづった。パレスチナの子らとどう違うのだろう。悲劇を経験したユダヤ民族だからこそ、深く分かるはずではなかったか。

(2009年1月9日朝刊掲載)

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