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社説・コラム

「人工衛星」打ち上げ 北朝鮮の狙い・背景は 島根県立大の福原准教授に聞く

■記者 吉原圭介

 北朝鮮が4月上旬にも「人工衛星」を発射する計画をめぐり、島根県立大北東アジア地域研究センターの福原裕二准教授(38)=朝鮮半島地域研究=に17日、北朝鮮の狙いや背景を聞いた。福原氏は「体制維持が目的。これを機に日本が軍事力を増強すれば北東アジアの安全保障が揺らぐ」と警鐘を鳴らした。

体制維持へ軍事力誇示 迎撃なら日朝関係に激震

 -なぜこの時期に発射するのですか。
 北朝鮮が最も重要視するのは「体制維持」だ。金正日(キムジョンイル)総書記は1996年の講演で、各国の社会主義が崩壊した理由を「党が変節し、党が軍隊を掌握できなかった」と分析した。軍事力への執着はそれがあるからだ。

 健康問題も取りざたされたが、国内的には2012年の金日成(キムイルソン)主席の生誕100年に向けて軍事力を誇示し、「強盛大国」であることをアピールする狙いだろう。今月8日に投票された最高人民会議(日本の国会)で代議員の若返りもあったため、いま一度引き締める意図もある。

 -対外的な狙いは。
 国際社会は本来、小国には目を向けない。しかしミサイルを発射することや核兵器保有を宣言することで、超大国米国と交渉し「体制維持」につなげる思惑がある。今回の発射計画も、例えば中止の見返りに食糧支援を取り付ける、といったことも視野に入れているのではないか。

 -北朝鮮の核開発疑惑があった2002年には、日本の核武装論をめぐり日本政府高官たちの発言が相次ぎました。今回の影響は。
 日本ではミサイル防衛(MD)などの議論が一気に加速している。もし日本がこれを機に軍事力を増強すれば、中国の不信感を招き、結果的に北東アジアの安定を揺るがす。

 個人的には、北朝鮮はミサイルも核兵器も使う気はないと思う。あくまで「体制維持」のためで、過剰に反応するのは賢明でない。

 -日本政府は「人工衛星」を迎撃する態勢をとるようです。北朝鮮の反応をどう予測しますか。
 「迎撃は宣戦布告とみなす」と言っているが、実際の戦争になることはない。力の差があることは重々承知だろう。ただ韓国に向けているミサイルの試射をしたり、第二弾を発射するなど何らかの軍事的な動きをする可能性は高い。そのほか拉致問題への波及も避けられないし、国交正常化を目指す日朝平壌宣言や六カ国協議など、これまで積み上げてきたものが崩れ去ることになる。

(2009年3月18日朝刊掲載)

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