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社説・コラム

中央ア非核地帯条約発効に寄せて

■京都外大教授 石栗勉

圧力に屈せず初志貫徹

 中央アジア非核兵器地帯条約がついに発効した。2006年9月の条約署名の後、各国の批准待ちだったが、最後となったカザフスタンの批准書寄託を受けて、30日後に発効したのである。

 今年2月にはニューヨークを訪れ、長年の苦楽をともにした中央アジア五カ国大使とともに喜んだところだ。こうした経緯から今回の発効について次のように評価する。

 ①世界の核軍縮・不拡散の要である核拡散防止条約(NPT)7条が認める核軍縮措置として歓迎する。

 ②北朝鮮の核実験、イランの核計画、核の闇市場の露見、核テロの危険性など核不拡散体制がさまざまな挑戦を受ける中で、久々の快挙である。

 ③ソ連時代に核実験などで甚大な被害を受けた中央アジア諸国ゆえの核軍縮・核不拡散への貢献である。

 ④地域の安定、信頼醸成に有益だ。

 ⑤批判的な見解もあるが、この条約が存在しない場合を考えれば答えはおのずと明らか。(フランス、英国、米国は、ロシアも関与する既存の安全保障条約とこの条約との関係などを問題視し否定的だが、条約交渉とはまず政治的合意を拘束力ある文書にするものだ。3カ国は無秩序な核物質や技術の流通、核テロの温床、核開発、カザフスタンの核兵器継続保有がよかったのだろうか)

 ⑥来年のNPT再検討会議への貢献であり、会議はこの成果を正当に評価すべきだ。

 核軍縮については、米国のキッシンジャー元国務長官たちの寄稿などさまざまな提案があるが、核兵器国指導者に確実に届けることが肝心だろう。核兵器国首脳の指導力が不可欠だが、彼らはまだ若く、核の被害、その使用が文明の滅亡につながることを実感として知らない。そこで訪日の機会には、選択肢として広島、長崎訪問を加えるべきだ。

 来月初めには米ロ首脳会談が開かれる。核軍縮の起爆剤として米国は、戦略核兵器の大幅削減を宣言、実施してほしい。レーガン元米大統領・ゴルバチョフ元ソ連大統領の名言「核戦争に勝者はなく、戦ってはならない」を再確認するべきだ。国連事務総長は来年のNPT再検討会議冒頭にサミット会合を呼びかけるのも良いだろう。こうして核軍縮を核兵器国首脳の共通議題とするのだ。

 いずれにせよ中央アジア非核兵器地帯条約は、地域の5カ国が自らの発意で進めた具体的な核軍縮貢献であり、NPT再検討会議にとって好材料となる。域内のさまざまな困難を克服し、起草作業を阻害するような国連内外の異常な圧力に屈することなく、初志貫徹した五カ国首脳の指導力を大いにたたえたい。


 いしぐり・つとむ 1948年生まれ。72年外務省に入り、87年に国連軍縮局へ。92年から2008年3月まで国連アジア太平洋平和軍縮センター所長を務め、中央アジア非核兵器地帯条約の起草、署名にも深くかかわった。新潟市出身。

(2009年3月21日朝刊掲載)

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