『核兵器はなくせる』 4月1日米露首脳会談 ポイントを聞く
09年3月31日
オバマ米大統領とメドベージェフ・ロシア大統領は4月1日に英国で初の首脳会談に臨む。今月6日の米ロ外相会談では、今年12月で失効する第一次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな核軍縮条約の年内合意で一致。両首脳は会談で、新条約に関する声明に署名する見通しだ。米ロ情勢に詳しい二人の研究者に、会談のポイントを聞いた。
■記者 吉原圭介
-新条約にどの程度の核軍縮が盛り込まれるとみますか。
今月中旬に訪米して軍縮問題の専門家に話を聞くと「核弾頭千個レベル」との目安が出た。公的な言及はないが、専門家の間ではよく取り上げられるようになった数字だ。オバマ大統領は劇的な削減を望んでいるとも言われている。交渉を見守りたい。
-首脳の初顔合わせをどう予測しますか。
核兵器削減の新条約を締結する声明に署名し、その決意を発表するだろう。世界の核兵器の95%以上を持つ両大国が核軍縮に取り組むとのメッセージは意義深い。具体的な数字が出るかどうかは分からないが、来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて弾みになるのは間違いない。
ただ課題はある。大陸間弾道ミサイル(ICBM)など運搬手段の削減をどう扱うか、削減の検証をどう透明化するかなどの難問が、年末までの短期間でクリアできるのかを懸念している。
-先の米ロ外相会談でクリントン米国務長官は両国関係の「リセット」をアピールしました。その意味は。
ブッシュ前政権の一国主義、一方的外交からの「チェンジ」という意気込みを示した。ブッシュ時代の核軍縮は「失われた八年」だった。今回は核軍縮がようやく米ロの優先的な議題になり、大きな意義がある。協調路線の背景には、経済問題やイランの核開発問題で協力したいとの思いもあるだろう。
-米側のミサイル防衛(MD)欧州配備計画が影響しませんか。
MDが対ロシアか対イランかの意図はともかく、ロシアにとって脅威になっているのは事実。そこに配慮しなければだめだ。ただ米国はMD配備計画も見直すのではないか。
おおしま・ひろし 東京大卒。共同通信ワシントン、ニューヨーク支局長などを経て2008年から現職。専門は国際ジャーナリズム論、アメリカ論。
■記者 金崎由美
-START1後継条約をめぐる米ロ合意をどう評価しますか。
昨年のグルジア紛争以後、米ロ関係は冷戦後で最悪と言われていた。関係改善に踏み出した意義は大きい。だが、腹を探り合っている段階。START1が失効する12月までにすべてのハードルを乗り越え、新しい条約を締結するのは厳しい。現行条約を延長し、失効を防いだ上で交渉を続ける可能性もある。
-米ロの認識は共通していますか。
核弾頭の維持管理は膨大な費用がかかり、削減にはメドベージェフ大統領も合意している。しかしロシアは、米国に劣る通常戦力の穴埋めとして核戦力を重視している。「総論賛成、各論反対」だ。
米中枢同時テロを機に米国は、テロリストや大量破壊兵器の拡散へと安全保障面の関心を移し、大量の核兵器を持つ動機は低下した。しかしロシアを取り巻く環境は違う。北大西洋条約機構(NATO)が拡大してロシア領に迫り、ミサイル防衛(MD)配備計画もある。
このためロシアにとって、米国の主張の丸のみは抵抗が大きい。特にMD問題は重大。チェコにレーダー施設ができると、ロシアの動きが丸見えになる。
-ロシアが妥協できる最低ラインは。
MDの共同管理だ。レーダー施設や迎撃ミサイル施設にロシア軍兵士を常駐させる。ロシアは以前この提案をしたが、ブッシュ政権が拒否した。最近再び提案し、オバマ政権の出方を見ている。
-交渉成功の鍵は。
ロシアは(弾道ミサイルなど)運搬手段の廃棄も含み、かつ対等な内容でなければ納得しない。他の懸案と切り離して交渉するつもりもない。オバマ政権がどれだけ譲歩するかが問われるだろう。
ひょうどう・しんじ 上智大大学院修了。防衛研究所助手、在ロシア大使館専門調査員などを経て2003年から現職。専門はロシア政治。
第1次戦略兵器削減条約(START1)
1991年、米国と当時のソ連が締結した。①戦略兵器運搬手段を1600基に削減②戦略核弾頭の総数を6000発に削減-のほか、現地査察など厳格な検証措置も規定。削減義務は2001年に両国が履行完了を宣言した。
(2009年3月30日朝刊掲載)
広島修道大教授 大島寛氏(60)
劇的な削減 米が提示も
劇的な削減 米が提示も
■記者 吉原圭介
-新条約にどの程度の核軍縮が盛り込まれるとみますか。
今月中旬に訪米して軍縮問題の専門家に話を聞くと「核弾頭千個レベル」との目安が出た。公的な言及はないが、専門家の間ではよく取り上げられるようになった数字だ。オバマ大統領は劇的な削減を望んでいるとも言われている。交渉を見守りたい。
-首脳の初顔合わせをどう予測しますか。
核兵器削減の新条約を締結する声明に署名し、その決意を発表するだろう。世界の核兵器の95%以上を持つ両大国が核軍縮に取り組むとのメッセージは意義深い。具体的な数字が出るかどうかは分からないが、来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて弾みになるのは間違いない。
ただ課題はある。大陸間弾道ミサイル(ICBM)など運搬手段の削減をどう扱うか、削減の検証をどう透明化するかなどの難問が、年末までの短期間でクリアできるのかを懸念している。
-先の米ロ外相会談でクリントン米国務長官は両国関係の「リセット」をアピールしました。その意味は。
ブッシュ前政権の一国主義、一方的外交からの「チェンジ」という意気込みを示した。ブッシュ時代の核軍縮は「失われた八年」だった。今回は核軍縮がようやく米ロの優先的な議題になり、大きな意義がある。協調路線の背景には、経済問題やイランの核開発問題で協力したいとの思いもあるだろう。
-米側のミサイル防衛(MD)欧州配備計画が影響しませんか。
MDが対ロシアか対イランかの意図はともかく、ロシアにとって脅威になっているのは事実。そこに配慮しなければだめだ。ただ米国はMD配備計画も見直すのではないか。
おおしま・ひろし 東京大卒。共同通信ワシントン、ニューヨーク支局長などを経て2008年から現職。専門は国際ジャーナリズム論、アメリカ論。
防衛省防衛研究所主任研究官 兵頭慎治氏(40)
MD計画の見直しが鍵
MD計画の見直しが鍵
■記者 金崎由美
-START1後継条約をめぐる米ロ合意をどう評価しますか。
昨年のグルジア紛争以後、米ロ関係は冷戦後で最悪と言われていた。関係改善に踏み出した意義は大きい。だが、腹を探り合っている段階。START1が失効する12月までにすべてのハードルを乗り越え、新しい条約を締結するのは厳しい。現行条約を延長し、失効を防いだ上で交渉を続ける可能性もある。
-米ロの認識は共通していますか。
核弾頭の維持管理は膨大な費用がかかり、削減にはメドベージェフ大統領も合意している。しかしロシアは、米国に劣る通常戦力の穴埋めとして核戦力を重視している。「総論賛成、各論反対」だ。
米中枢同時テロを機に米国は、テロリストや大量破壊兵器の拡散へと安全保障面の関心を移し、大量の核兵器を持つ動機は低下した。しかしロシアを取り巻く環境は違う。北大西洋条約機構(NATO)が拡大してロシア領に迫り、ミサイル防衛(MD)配備計画もある。
このためロシアにとって、米国の主張の丸のみは抵抗が大きい。特にMD問題は重大。チェコにレーダー施設ができると、ロシアの動きが丸見えになる。
-ロシアが妥協できる最低ラインは。
MDの共同管理だ。レーダー施設や迎撃ミサイル施設にロシア軍兵士を常駐させる。ロシアは以前この提案をしたが、ブッシュ政権が拒否した。最近再び提案し、オバマ政権の出方を見ている。
-交渉成功の鍵は。
ロシアは(弾道ミサイルなど)運搬手段の廃棄も含み、かつ対等な内容でなければ納得しない。他の懸案と切り離して交渉するつもりもない。オバマ政権がどれだけ譲歩するかが問われるだろう。
ひょうどう・しんじ 上智大大学院修了。防衛研究所助手、在ロシア大使館専門調査員などを経て2003年から現職。専門はロシア政治。
第1次戦略兵器削減条約(START1)
1991年、米国と当時のソ連が締結した。①戦略兵器運搬手段を1600基に削減②戦略核弾頭の総数を6000発に削減-のほか、現地査察など厳格な検証措置も規定。削減義務は2001年に両国が履行完了を宣言した。
(2009年3月30日朝刊掲載)