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社説・コラム

社説 米露首脳会談 核兵器廃絶へ流れ強めたい

 10年近く足踏み状態だった核軍縮が再び動きだした。米国とロシアが首脳会談で、戦略核兵器を減らす新しい条約の交渉をすぐに始めることで合意した。この流れをさらに強め、核兵器廃絶へとつなげたい。

 両国の核兵器は合わせて2万発程度とされ、世界全体の9割以上を占める。うち4000-6000発の戦略核を互いに1500発ぐらいまで減らそうとしているようだ。7月までに協議をまとめるという。

 核超大国の両国が核軍縮にかじを切れば、他の核保有国をはじめ世界に与える影響は大きい。早くも英国は、交渉進展を後押しするかのように、自らも減らす用意があることを明らかにしている。

 核開発を進めているとされるイランや北朝鮮へのメッセージとなることも期待したい。自分を棚に上げて「核兵器をつくるな」「廃棄しろ」と迫っても反発を招くだけ。削減の姿勢を見せてこそ説得力を増すはずだ。

 これまでかたくなに核軍縮を拒んでいた米国が態度を変えたのは、直接的にはブッシュ政権が退場したからである。

 ただその背景には、米国内の世論の変化がある。歯止めのかからない核拡散を防ぐには核保有国が率先して核兵器削減に踏み切らなくてはならない、との考えが急速に広がっている。

 元国務長官のキッシンジャー、シュルツ両氏ら、冷戦下で核抑止政策に携わった人たちが唱え始めた。テロリスト集団が核兵器を手にする恐れが増している。それを防ぐには核兵器をなくすことが必要だとの見方である。

 オバマ大統領は、そうした考えをくみ取って「核兵器のない世界」という公約を掲げたとも言えよう。今回の交渉は、ロシアにとっても都合がよかったに違いない。

 ブッシュ時代に米国は、チェコやポーランドでのミサイル防衛(MD)施設の建設を計画した。イランを監視するのが狙いとの米国の説明に、ロシアは反発を強めている。「西側の軍事同盟」である北大西洋条約機構(NATO)に、隣国のウクライナやグルジアが加わろうとする動きにも、神経をとがらせる。

 交渉によって譲歩を引き出し、かつグルジア紛争で冷え込んだ両国関係の修復につながれば、ロシアのメリットは大きい。

 ただ条約の中身はこれからである。削減する数を詰めることはもちろん、実行したことをどうやって検証するかを明らかにしておかなければならない。

 今のモスクワ条約には実戦配備された核弾頭を減らしても廃棄は義務付けていない。そんな「抜け道」があるのでは効果も半減するだろう。何よりも非核国の失望を招く。

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が来年春、開かれる。前回はブッシュ政権が核軍縮に対して否定的で、何の成果もなかった。今度こそ米ロの交渉の進展によって、核廃絶への道を切り開きたい。

(2009年4月3日朝刊掲載)

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