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社説・コラム

社説 北朝鮮のミサイル 「挑発」封じ 国際連携で

 北朝鮮が打ち上げた「飛翔(ひしょう)体」が日本の上空を飛び越えた。人工衛星との触れ込みだが、実質的には米国まで届く長距離弾道ミサイルの実験だったとみられる。

 日本はもちろん、世界にとっても大きな脅威だ。とても容認できない。政府が国連安全保障理事会の緊急開催を求めたのは当然である。ミサイルで得るよりも失うものの方が大きい-と北朝鮮が考えるような環境をどうつくるか、日本は米韓と連携して国際社会に働きかけなければならない。

 政府は打ち上げ直後にキャッチして、情報を自治体などに流すことができた。おとといのような失態もなく、日本への直接被害もなかった。しかし二つの深刻な懸念を抱かざるを得ない。

 まず「交渉カード」を手にした北朝鮮の強気である。

 軍備をエスカレートさせながらその削減を条件に「実」を取るのが、北朝鮮の手法だ。ミサイルに核弾頭も載せられるとなると、米国に対する大きな交渉材料になるはずである。

 金正日(キムジョンイル)政権が望んでいるのは、第一に独裁体制の維持であり、それを支える食料や石油などの経済支援だろう。将来的には、在韓米軍の撤退まで求めてくるとみられる。どんな形の交渉になるにせよ、これまで以上の譲歩を引き出そうとするだろう。

 もう一つは、ミサイル技術の他国への移転だ。北朝鮮はこれまでイランやパキスタンに技術を輸出したとされる。核保有国や核兵器開発を考えている国に高度なミサイル技術が持ち込まれれば、周辺国に緊張が走るだろう。

 国際社会は「やり得は許さない」という毅然(きぜん)とした意志を見せなければならない。それにはまず六カ国協議のメンバーが、きょう開かれる安保理で足並みをそろえることである。

 日米韓は「ミサイル開発を禁じた安保理決議に違反する挑発」と強い態度で一致している。実効性のある新たな決議案も示す見通しだ。ただ中国、ロシアが一歩引いているのが気になる。

 日本政府がさらに中ロに働きかけるのはもちろんだが、ここはオバマ大統領のリーダーシップに期待したい。自国が射程に入り、イランにミサイル技術が渡るというのは、米国にとっても見逃せない事態だろう。

 ミサイルは日本の防衛の在り方もあぶり出した。政府の対応はうがった見方をすれば、この機会に事寄せてミサイル防衛(MD)システムを、国民に認知させようとしたともいえそうだ。

 「危ない北朝鮮に対してはMDが必要」と思った人は多かろう。しかし巨額の予算で米国から買う未完成のシステム。精度を上げるにはさらに膨大な金がかかる。

 内需の拡大が叫ばれている不況下である。それだけの金を投じるに足る効果があるのかどうか。かえって東アジアの緊張を招くことにならないか。そうした視点からの落ち着いた議論を、これからすべきだろう。

(2009年4月6日朝刊掲載)

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