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社説・コラム

論評 オバマ大統領演説 ヒロシマの願い共有へ

■センター長 田城 明

 被爆地広島・長崎、被爆国日本にとって5日は、明暗分かれるニュースが同時に飛び込む1日となった。明るいニュースは、核超大国のオバマ米大領領がプラハから世界に向かって、核兵器廃絶の実現に向けて大胆に行動することを約束したことだ。暗いニュースは、北朝鮮による長距離弾道ミサイルとみられる飛翔(ひしょう)体の発射である。

 この日の演説は、1日に米ロ間で合意した大幅な核削減を目指すことだけでなく、オバマ政権の包括的な核政策に触れたものだった。大勢のチェコ市民の前で、「唯一原爆を使用した核保有国として、米国には(核兵器のない世界の実現に向け)行動する道徳的責務がある」との力強い訴えは、世界の多くの人々の心をとらえたに違いない。

 米国での包括的核実験禁止条約(CTBT)批准の推進、米ロ二国間から多国間の核軍縮交渉への進展、核拡散防止条約(NPT)の強化、核物質がテロリストの手に渡らないためにも重要とする兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の早期交渉開始…。

 オバマ大統領が言及した内容は、被爆地をはじめ世界の多くの市民がこれまで核保有国に訴え続けてきたことである。ブッシュ政権下の8年間に味わってきた私たちの大きな失望。オバマ大統領の誕生で、ようやく私たちの訴えが真剣に受け止められたのだ。

 むろん、その背景には、核のテロリズムや核拡散が、防ぎようのない危険な域に達しているとの認識がある。

 オバマ大統領は、世界には避け得ない意見の違いがあり、核兵器をなくすというような「困難な目標が達成できるのかと懐疑的な人たちがいる」と発言し、こう続けた。「協力を訴える声を非難したり無視したりするのは簡単だが、それは臆病(おくびょう)なことだ。そうやって戦争が始まり、人類の進歩が止まるのだ」と。

 そして、まるで大統領選のときのように「Yes we can(私たちにはできる)」と呼び掛けた。

 私には「懐疑的な人たち」は、核態勢を維持したい軍産複合体をはじめ冷戦思考から脱却できない米国人を暗に指しているようにも聞こえた。オバマ大統領は、核兵器のない世界の実現に向け、今度は世界中の人々に対して「Yes we can」と変革への強い意志を示したのだ。

 そして世界の反核世論の盛り上がりによって、米議会をはじめ、これから直面するであろう多くの障壁を乗り越えようとの思いを表したのではないか。

 暗いニュースとなった北朝鮮のミサイル発射に対しても、オバマ大統領は「ルールを破った」と強い口調で非難した。

 核、ミサイル開発と、北朝鮮の変わらぬ瀬戸際外交には憤りを禁じ得ない。だが、六カ国協議を軸に、私たちは冷静に対応しながら北東アジアの非核化を目指す必要があるだろう。そのことが、世界から核兵器をなくすことに確実につながっていくに違いない。

 「道のりは遠いかもしれない」というオバマ大統領に、新たな決意を持ってもらうためにも、是非、広島訪問を早期に実現させたいものである。

(2009年4月6日朝刊掲載)

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