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社説・コラム

『核兵器はなくせる』 外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏に聞く

■記者 吉原圭介

 オバマ米大統領が5日の演説で明らかにした「核兵器のない世界」への包括構想をどう分析するか、外交ジャーナリストの手嶋龍一氏(59)に6日、東京都内でインタビューした。手嶋氏は内容を高く評価し「被爆地や日本政府は核軍縮の絶好の機会ととらえ、行動する時だ」と指摘した。

 -演説で「核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任」と言及した点をどう評価しますか。
 歴代の米国大統領で初めて核使用の道義的責任に踏み込んだ意味は大きい。米国内で右派がなお影響力を持ち、スミソニアン博物館で原爆被災資料の展示ができなかったことを考えれば勇気ある発言だ。信念に従って取り組もうとしている。

 就任2カ月の演説として、整合性が取れ、非常に高い水準の提言だと評価すべきだろう。理想論に陥らず、北朝鮮やイランへの目配りも利き、成熟した核戦略を論じている。

 冷戦期のレーガン大統領は、核戦争の引き金になりかねなかった中距離核の全廃条約に調印し、核兵器の一部の廃絶を初めて成し遂げた。これに次ぐうねりが起きつつあるとみていい。

 -「核兵器が存在する限り、敵に対する抑止力を保つ」とも表現したことへの受け止めは。
 米国だけ一方的に核兵器を減らせば、核のバランスが崩れてしまうと考えているのだろう。核攻撃を受ける危険を高め、それが米国を先制攻撃の誘惑に駆り立て、かえって核戦争の可能性を高めるとみている。全局面を見極めながら徐々に核軍縮を進める現実路線だと言える。

 こうした発言に関連して「日本は核の傘から出るべきだ」と主張する人もいるが、短慮というべきだ。2006年に北朝鮮が核実験をした直後、当時のライス国務長官が来日し麻生太郎外相に「日米同盟を通じて米国の抑止力を確約する」と話した。日本の核武装を懸念し、米国の核の傘は万全だと言いたかったのだろう。日本とドイツに独自の核は持たせないというのが米国の本音。日本が米国の核の傘から出ることは、国際社会には独自核武装へ傾くと映ることに留意すべきだ。

 -日本がとるべき政策は。
 米国は核政策を転換しようとしている。日本政府は15年連続で国連に核軍縮決議案を提出し、米国は一貫して反対してきた。オバマ政権に賛成に転じさせる絶好のチャンスだ。日本外交に奮起を促したい。

 また日本は非核保有国を代表して国連の常任理事国入りを目指し、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効や核拡散防止条約(NPT)の強化でオバマ政権と連携すべきだ。

 -今年秋にオバマ大統領の来日が検討されています。
 広島訪問を実現させ、核兵器廃絶に向けたヒロシマ演説をしてほしい。その宣言が道標となって核廃絶に道筋を付けることを切望する。被爆者も行動の時を迎えている。

 てしま・りゅういち NHKワシントン支局長などを経て2007年から慶応大教授。核戦略論を担当する。近著に「葡萄酒か、さもなくば銃弾を」。

(2009年4月7日朝刊掲載)

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