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社説・コラム

『核兵器はなくせる』 外務省元主任分析官の作家・佐藤優氏に聞く

■記者 吉原圭介

 外務省元主任分析官で作家の佐藤優氏(49)は「第三次世界大戦は始まっている」と主張する。東京都内で9日、米ロ関係の現状分析などを聞いた。

 -「国家と非国家の戦い」が始まっているという意味ですね。
 イスラエルの情報機関モサドの元長官が、米中枢同時テロ以降に始まったと分析している。「非対称」の戦争であり、国家に対するテロは政治的な主張を持った戦争だ。

 その中で今、核兵器が使われる可能性が最も高いのはインドとパキスタン国境のカシミール地方。パキスタンでは昨年、ムシャラフ政権が倒れ、イスラム原理主義者グループを統制できない。カーン博士の核技術が彼らに渡っている可能性がある。

 -1日の米ロ首脳会談をどうみますか。
 2日付のイズベスチヤ紙は一面トップで、メドベージェフ大統領とオバマ米大統領がにらみあっているように見える写真を使った。あえてこのカットを選んだのは、クレムリンは会談内容が好ましくなかったと考えていると読むべきだ。

 注目すべきは三月の米ロ外相会談。クリントン米国務長官がリセットボタンの箱を用意して二人で押すパフォーマンスをしたが、「リセット」のロシア語のスペルが違い、「荷物の加重積載」だった。米国務省のレベルが分かる。実務的な協力関係があるなら事前に見せているはずで、両国関係が相当細くなっている象徴だ。

 -米国のミサイル防衛(MD)東欧配備など両国間の懸案事項の行方をどうみますか。
 グルジア問題でロシアは、侵攻してきたグルジアに応戦した。ところが米国は、ロシアが侵攻したとプロパガンダし、グルジアを擁護した。これによる相互不信は10年、20年は改善しないだろう。

 しかしそれよりも、ロシアにとってはウクライナへの米国の干渉が脅威。軍産複合体や宇宙産業の施設が相当あり、米国が親米政権をつくり、その情報が筒抜けになることを警戒している。

 -ロシアは核兵器を減らせますか。
 6年前に軍人から「1000発くらいまで相互に減らしていくことが重要」と聞いた。あり得る数字だ。

 ロシアは平和教育が進み、外交や軍事のエリートは核兵器が必要と考えていても、国民は廃絶すべきだと思っている。ヒロシマのことをロシアでは知らない人がいないほどだ。

 -日本外交への注文は。
 被爆地広島も被爆国日本も核兵器廃絶を訴え続けるべきだ。核武装論を主張する国会議員たちは無責任。核保有と原発はパッケージで考えるべきで、日本がもし核武装をすれば核拡散防止条約(NPT)から脱退しなければならず、すると燃料のウランを買えなくなって原発は止まる。

 真の愛国心とは勇ましいことを言うことではない。二度と原爆が落ちないような状況をつくることだ。

 -外務省は「核の傘」に頼っているのでは。
 外務省は「人」による。自己保身が先で、日米同盟強化とか核兵器への依存とか言う人が(省内で)力を持つと危ない。今の外務省は外交方針が見えない。国家の衰退期の現象だ。

さとう・まさる 外務省で対ロシア外交の情報専門家として活躍した。2002年に東京地検が背任容疑で逮捕。一、二審で執行猶予付き有罪となり上告中。著書は「自壊する帝国」「国家の罠」など多数。

(2009年4月10日朝刊掲載)

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