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社説・コラム

コラム 視点 「文民による文民のための」平和構築人材育成を

■センター長 田城 明

 一口に「平和構築」といっても随分間口が広い。一般的には紛争の予防、紛争の解決、紛争後の復興、と大まかに3つの段階に分けられている。

  どの段階においてもよく耳にするのは、国連平和維持活動(PKO)という言葉である。ところが、PKOというと、私たちは各国から派遣された国連平和維持軍(PKF)を思い浮かべがちである。実際、紛争地では銃を手にPKF共通の「ブルーヘルメット」を被った兵士が目立つからだ。

  平和構築を目的に人材育成をしている国は、アジアを含め多くの国に存在する。だが、その多くは兵士として平和維持活動で必要な能力を身につけさせるためである。外務省の委託を受け、2年間にわたり広島大が取り組んだパイロット事業の特徴は、紛争地の復興支援に主眼を置いた「文民に特化した、文民による文民のための研修制度」である。

   こうした平和構築のための人材育成事業は、被爆国として、また被爆を体験した大学としてふさわしい活動といえる。原爆による廃虚から復興したヒロシマは、アジア各国から参加の研修生のみならず日本人研修生にとっても、核戦争の脅威や平和都市再生の歩みなどを学んでもらう良い機会となろう。研修後、世界の各地へ飛び立った研修生同士のネットワークの広がりも、平和構築に生かされるだろう。

 ただ、平和構築活動は、国連による平和維持活動だけではない。その活動に参加する日本人の文民が、世界全体の1%未満だとしても、非政府組織(NGO)や国際協力機構(JICA)が派遣する青年海外協力隊員ら、紛争地や紛争後の地で、あるいは開発途上の国で、現地の人々ともに汗を流す若者は多い。ほとんどのNGOは、脆弱(ぜいじゃく)な財政基盤にもかかわらず、世界各地でさまざまな平和構築に取り組んでいる。彼らの活動も、平和国家日本の国際貢献に大きく寄与している。

 アフガニスタンで農業支援に従事していたNGO「ペシャワール会」(本部・福岡市)の伊藤和也さんは、「みんなが食べられる食料があることが平和の基礎」と、灌漑(かんがい)を造って砂漠を農地に変え、現地に適した苗の育成などに取り組んだ。しかし、昨年8月、31歳の若さで武装グループの凶弾に倒れたのは記憶に新しい。

 四半世紀にわたりパキスタン北西部やアフガニスタンで医療や農業指導を続けるペシャワール会現地代表で医師の中村哲さん(62)は、アルカイダやタリバンの掃討を目的に、米軍の行動が激化すればするほど、民間活動が支障を受け、自分たちの身にも危険が及ぶという。アフガニスタンへの安易な自衛隊派遣が、民間の日本人にとってもアフガン人にとっても、必ずしもプラスにならないことへの警告である。

 広島大の平和構築人材育成事業も、「文民による文民のための」姿勢を貫くことで被爆者をはじめ幅広い市民の支持が得られるだろう。大学関係者にも、年間数億円という多額の税金を費やす外務省にも、その点を肝に銘じて事業を遂行してもらいたい。そして、この事業が広島大を通じて大きく発展してほしものである。

  (2009年4月6日朝刊掲載)

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