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社説・コラム

『核兵器はなくせる』 <解説> 核戦争否定への契機

  ■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 江種則貴

 核兵器廃絶への行動を約束するオバマ米大統領の被爆地訪問が実現すれば、原爆投下国にとっても広島にとっても、意義は極めて大きい。被爆国日本政府とともに歩調を合わせ、ぜひ実現させたい。

 オバマ大統領は5日のチェコ・プラハでの演説で「核兵器廃絶に向けた具体的な措置を取る」と宣言し、「核兵器を使用した唯一の核保有国としての道義的責任がある」と明言した。被爆地訪問は、その責任を果たす大きな一歩となるはずだ。

 原爆投下国はこれまで「戦争の早期終結のため」などと自らの行動を正当化してきた。その米国の現職大統領が被爆地を訪れるということは、きのこ雲の真下で繰り広げられた人間的悲惨に接することである。核攻撃のボタンを押す最高責任者が、核被害者の声に耳を傾けることである。

 むろん、放射線の後障害に苦しむ被爆者や肉親を奪われた遺族は複雑な思いにもなるだろう。原爆に対する恨みや憎しみはたやすく癒えるものではない。

 しかし、核兵器を持つ国が自らの意思で削減しない限り核軍縮は進まない国際政治の現実がある。大国の独占的な核保有が続く限り非核国の不満は解消されず、それが核拡散の連鎖を招いてきた嘆かわしい現実もある。オバマ氏自身もプラハ演説で「核抑止」に固執する考えを述べた。

 その意味で米国現職大統領の被爆地訪問は、核兵器の威力に基づく抑止論を放棄し、犠牲者の痛みに基づいて核戦争を絶対否定する「人間的抑止」へと転換を強く迫る契機になり得る。それこそが被爆地の積年の訴えである核兵器廃絶への原動力にほかならない。

 米国の「核の傘」に守られながら廃絶を説くという自己矛盾を続けてきた被爆国にとって、今回訪米した安倍晋三元首相が被爆地訪問を打診し、核軍縮への連携で合意した意味合いもまた大きい。オバマ氏の被爆地訪問は新時代の日米関係を築く第一歩ともなる。被爆地と日本政府が連携し、実現への方策を真剣に探りたい。

(2009年4月17日朝刊掲載)

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