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社説・コラム

社説 NPT会議準備委 核廃絶へ着実な一歩に

 この10年間、有名無実だった核拡散防止条約(NPT)がやっと存在感を示すことになりそうだ。来年開かれるNPT再検討会議の準備委員会が、会議の議題を全会一致で採択した。

 最大の焦点とされていたのが議題の採択である。何しろ、決裂した前回(2005年)の再検討会議では、なかなか議題さえ決められなかった。

 採択されたのは20項目。「核兵器廃絶への明確な約束」など画期的な内容を盛り込んだ2000年会議の採択文書を踏まえることになった。

 「核軍縮の進展」「核拡散防止のための措置」「原子力平和利用の権利」が主テーマになる見通し。核廃絶に向けた保有国の取り組みが議題となった点を評価したい。

 1970年発効のNPTは、米国など成立時の保有五カ国には核軍縮を義務付け、非保有国には核兵器を持たない代わりに原子力平和利用の権利を認めている。再検討会議は運用状況を点検し、今後の方策を考えるために、5年ごとに開かれてきた。

 1995年の会議では条約の無期限延長を決めた。「明確な約束」を明記した2000年会議で、核兵器廃絶に向けた環境にはずみがついたように見えた。

 ところが、2005年会議では成果文書の採択に至らず、むしろ逆戻り。米国のブッシュ前政権が、小型核の開発にこだわるなど軍縮の流れに背を向けた。

 それを一変させたのはオバマ米大統領である。4月のプラハ演説などを通じ「核兵器のない世界」へ具体的な行動を取る姿勢を鮮明にしたからだ。準備委に寄せたメッセージでも「核兵器の脅威に対するためにNPTを強化すべき」と明言している。

 「世界の多数は、核廃絶を目指すオバマ氏の構想を支持するオバマジョリティー」。秋葉忠利広島市長が強調したように、核軍縮への期待が各国に広がっている。

 ただ米議会の超党派委員会は今後の核戦略について「核兵器全廃の環境は整っていない」との報告書をまとめた。当面は核抑止力も保持すべきとしている。米国内にはこうした考え方も根強いとされるだけに、一挙に事態が進むことは考えにくい。

 しかし既に米国とロシアの間では核軍縮交渉が始まっている。まず両国の大幅削減を実現し、それをてこにして保有国全体に広げていきたい。

 同時にNPTの枠外にも目を向けなければならない。核実験をしたインドやパキスタン、事実上の核保有国イスラエルはもともと加盟していない。脱退を宣言した北朝鮮も再度の核実験を強行する構えを見せている。これらの国々をNPTの枠組みに加える努力も欠かせない。

 日本もオバマ大統領の構想に合わせて、核兵器削減の11項目提案を打ち出している。唯一の被爆国として麻生太郎首相が自ら各国トップに働きかけるぐらいの気迫を示すべきだ。

(2009年5月9日朝刊掲載)

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