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社説・コラム

コラム 視点 「隣国でのヒロシマの訴え 歴史を踏まえた理解が鍵」

■センター長 田城 明 

 「被爆者はどこにいても被爆者」。韓国人被爆者の郭貴勲(カク・キフン)さん(84)から以前もらった名刺には、日本語でこう記されている。郭さんはその信念で、差別を受け続けた在韓被爆者らの、日本人と変わらぬ援護措置を求めて40年余にわたって闘い続けてきた。

  旧日本軍の一員として被爆した郭さんの要求は、必然的に日本政府と日本人に、かつての朝鮮植民地支配への反省や償いを迫るものであった。一方で彼は、韓国内での原爆被害に対する知識のなさや、被爆者への無理解という厚い壁にも向き合わねばならなかった。

 広島・長崎への原爆投下で日本が降伏し、祖国の解放が早められた―。そんな考え方が支配的な韓国で、核兵器廃絶や平和への願いを伝えるのは容易ではない。原爆投下に対する大きな認識の違い…。2004年の広島世界平和ミッション第2陣で中国・韓国を訪問した被爆者らメンバーも、戸惑うことが多かった。

 韓国では日韓両国の実情や、原爆がもたらす悲惨さを身をもって知る郭さんにもメンバーに加わってもらった。20~30代の若い世代との交流では、北朝鮮の核開発についても議論。積極的な支持者からは「国を守るためだし、米国をはじめいろんな国が持っているのに、北朝鮮だけが持てないのは不公平」といった主張もあった。そんなとき、元高校校長の郭さんは「核は常に使われる可能性がある」と語気を強めて戒めたと同行記者は語った。

 先月末に強行された北朝鮮の2回目の核実験。中国新聞が求めた談話に彼は、北朝鮮の開発に対抗して日本が核開発に乗り出せば「東アジアは恐怖でにらみ合う世界となる」と強い懸念を表した。

  南北が統一すれば「核兵器は自国のものになる」と考える人が相当数いるといわれる韓国。「核開発をすべきだ」と唱える一部の政治家らがいる日本。どちらの考え方も危険だと知るからこそ、郭さんは「周辺諸国と米国が一体となり、北朝鮮の核開発を止めなければならない」と強調するのだ。

 彼の率直な意見は、日本人の耳には痛いかもしれない。だが、忌憚(きたん)ない意見に向き合ってこそ、過去の歴史を踏まえた隣国同士の本当の理解が深まるだろう。そのとき、ヒロシマの訴えも共感を呼び、韓国から現在3都市だけの平和市長会議への参加都市も増えるに違いない。

(2009年6月8日朝刊掲載)

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