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社説・コラム

イラン混乱の背景・行方 広島大大学院の吉村教授に聞く

■記者 吉原圭介

 大統領選の「不正疑惑」を発端とするイランの混乱の背景は何か。今後、収束に向かうのか。イラン現代政治に詳しい広島大大学院総合科学研究科の吉村慎太郎教授に聞いた。

  ―落選したムサビ元首相と最高指導者ハメネイ師との対立は何が原因でしょうか。
 ハメネイ師が大統領だった1980年代、ムサビ氏は首相として行政権を握っていた。1988年8月にイラン・イラク戦争が終わって経済復興をする際、欧米からの積極的な外資導入を主張するハメネイ師に対し、ムサビ氏は国家統制経済の継続を訴えて対立した。このころからの2人の確執が影響している。

 ―現在の混乱は1979年のイラン・イスラム革命の再来とみますか。
 そうは思わない。デモに参加する若者は自由な欧米文化にあこがれ、イスラム体制を変え、言論の自由を得たいと考えている。一方、現在のイスラム体制を指導部の一員として作り上げてきたムサビ氏は、体制の大幅変革や打倒までは考えていない。ここに決定的な違いがある。若者はいずれムサビ氏に失望し、運動も沈静化の方向をたどるだろう。

 再び革命が起きるとすれば、リーダーの存在が不可欠。30年前はホメイニ師という妥協を許さない反体制の指導者がいた。今は体制を崩した後の秩序をどうするか、明示できる人はいない。

  ―護憲評議会は有権者数を上回る得票数の地域があったとしています。選挙に不正があったと思いますか。
 イランでは有権者が身分証明書を持っていればどこの投票所でも投票できる。地域の有権者数を上回る得票があっても、直ちに不正の証拠ということにはならない。ただ内務省が発表した州別の得票数を分析すると、アハマディネジャド大統領が全州で得票を伸ばしている。この4年間の政治実績の不評を考えると「不自然」だ。

 ―現政権は混乱を収拾できますか。
 護憲評議会はもう少し調査するなどしたうえでムサビ氏らの説得にかかるだろう。若者向けには、年20~30%ともみられるインフレや失業率の抑制策で懐柔を図るのではないか。豊富な石油資源の輸出で収入を増やし、公共事業の発注増に結びつけることもあり得る。「核開発疑惑」として世界の懸念を招いている原子力産業の強化が含まれる可能性もあり、注視が必要だ。

(2009年6月25日朝刊掲載)

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