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社説・コラム

「無関心が戦争招く」 井上ひさしさん 広島で思い語る

■記者 伊藤一亘

 護憲を訴える「九条の会」呼び掛け人の一人で作家の井上ひさしさん(74)が広島市を訪れ、「子どもの本・九条の会広島」設立の集いで講演した。戦争というものの実態に触れ、日本国憲法が国際的に果たしてきた役割や、広島への自身の思いを語った。

 「戦争の実態を知らないと、力が出てこない」。そう語り、第1次大戦以降の戦争による死者数を挙げた。

 「第1次大戦での死者は、軍人が95%を占め、一般人は5%にすぎなかった。だが、第2次大戦ではその比率が52%と48%に接近。朝鮮戦争で16%と84%となって逆転し、ベトナム戦争では5%と95%と、一般人が大多数を占めた」と語った。

 その上で「今、戦争を始めると、兵隊は少ししか死なず、戦争の始まりを見逃していた普通の人たちが死者のほとんどを占める」と、無関心が戦争を招く怖さを力説した。

 日本国憲法が南極条約締結に役立った歴史にも触れた。戦後、国際社会に復帰した日本が参加した南極観測で、数カ国が南極の領有権を主張して対立した。その時、日本代表として派遣された広島県出身の文部官僚木田宏さんが、憲法の前文や第9条を英訳して各国代表に配り「国際関係は互いの信頼が大事」と説得した。それが、南極大陸の領土権を凍結した「南極条約」につながったという。

 「日本国憲法には、アメリカの独立宣言やフランスの人権宣言など、世界中で人間が血と汗と涙を流して獲得した真理が入っていて、それが生きたんです」と力を込めた。

 井上さんには、戯曲「父と暮せば」、朗読劇「少年口伝隊一九四五」など広島への原爆投下を題材にした作品がある。「同年代の子どもが広島、長崎で地獄を見たとき、私は夏祭りの練習をしていた。ものすごい負い目があり、いつか広島を書きたいと願っていた」と打ち明け、「今でも広島、長崎を聖地と考えている」と語った。

 自らを含め、作家や画家、音楽家たちの表現活動について「世の中の見えないものを、見えるようにするのがわれわれの仕事。だから、いろいろ調べて、伝えていく責任がある」と締めくくった。

(2009年7月2日朝刊掲載)

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