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社説・コラム

社説 IAEA事務局長 被爆国の立場を生かせ

 「核の番人」のトップに日本人が初めて就く。核兵器の拡散になかなか歯止めがかからない中で、果たすべき責任は重みを増している。唯一の被爆国としての立場をしっかり貫いて、存在感を示してほしい。

 国際原子力機関(IAEA)の事務局長に選ばれた天野之弥氏である。外務省で主に核軍縮や原子力問題を担当し、今はウィーン国際機関代表部大使を務めている。きわどい差だったが、総力を挙げて取り組んだ日本外交にとって朗報といえる。

 1957年の創設後、146カ国が加盟し約2300人の職員を抱えるまでになったIAEA。原子力の平和利用を進める一方で、その技術や核物質が軍事転用されないよう査察を通じて目を光らせている。

 2005年には、現在のエルバラダイ事務局長とともにノーベル平和賞が贈られた。核拡散防止条約(NPT)が掲げる目的の多くを具体的に実行に移している要の組織といえよう。

 日本は1981年にも事務局長選に候補を立てたが、落選した。世界有数の原子力大国で、技術力もある。核武装への警戒感が当時はあったという。

 しかしその後、徐々に国際社会から信頼を得てきた。事実上の抜き打ち検査ともいえる核施設の厳しい査察も、原発を進めている国で真っ先に受け入れている。折に触れて一部の政治家による核武装論議が出てくるものの、核拡散防止の「優等生」としての実績が当選の背景にあっただろう。

 喜んでばかりはいられない。IAEAは今、緊急課題に直面している。2度目の核実験を強行した北朝鮮や、国連安全保障理事会の制裁決議に反してウラン濃縮を続けるイランにどう対応するか。これまでの人脈を通じて、両国が核兵器開発を思いとどまるように、国際世論を盛り上げる努力が求められる。

 気になるのは、今回の選挙でも表面化した途上国側と先進国側との溝である。その一つが、原発用の核物質などを国際管理する「核燃料バンク」構想だ。軍事転用を防ぐため、エルバラダイ事務局長が提唱し、オバマ米大統領が推進を目指している。

 ただ温暖化対策として原発を導入しようとする途上国側には、大国の思惑によって利用が制限されかねない、との不安も広がっている。ともすれば米国寄りとみられがちだけに、自ら掲げた「公正で実行力のある組織運営」ができるかが、試される。

 折しもオバマ大統領のプラハ演説で「核兵器のない世界」への期待が高まっている。IAEAの先頭に立って核拡散を防ぐ国際的な仕組みを強固にすれば、核兵器廃絶の後押しとなるに違いない。そうしてこそ日本人がトップに座る歴史的意味があるはずだ。

 政府はこれを機に、国是である非核政策をさらに進める姿勢を国際社会に示すなどして、天野IAEAを支援すべきである。

(2009年7月4日朝刊掲載)

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