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社説・コラム

コラム 視点 「ヒロシマ」継承に役割大きいピースボランティア

 原爆資料館を訪ねると、緑のユニホームを身に着けた人たちの姿を目にする。服の背中には「ヒロシマ ピース ボランティア」の青い文字。活動を始めて10年、資料館活動の欠かせぬ存在としてすっかり定着したようだ。

 資料館での展示資料についての説明や平和記念公園の碑巡り案内には、何よりもまず正確な知識が求められる。さらに原爆被害の実態を学ぶだけでなく、それぞれの遺品や碑にまつわるエピソードなどを知ることで、説明にも深みが増すであろう。

 来館者は年齢やグループ・個人の別など千差万別である。事前に依頼のあった人たちへの案内や、見学者の方から声が掛かればいいが、こちらから相手に声を掛けるとなると、タイミングを計るのにも気をつかう。一人で見たい人、時間のない人もいる。そこをどう見抜くか、ボランティアたちが苦労するところである。

 見学者から何を質問されるか分からないのも悩ましい。初めからすべての問いに答えるのは、誰にとっても困難であろう。一つ一つ学んで克服していくほかない。ボランティアたちが、それぞれに体験したことを分かち合いながら、互いに向上していこうとする取り組みも行われているのは心強い。

 ピースボランティアには、80代の被爆者もいれば、20代の会社員もいる。人生経験はさまざまだが、共通しているものがある。核戦争が何をもたらすかを人々に伝え、核兵器も戦争もない、平和な世界を築くことに少しでも役立ちたいとの熱い思いだ。

 63歳で会社を退職後、当初からピースボランティアに参加している被爆者は、「被爆の実相を相手に伝えるうえで、被爆者かそうでないかは問題ではない」と強調する。「体験を風化させず、伝えていこうとする強い思いがあれば、若い人たちにも十分可能だ」と。

 現在、ピースボランティアの登録者は210人だが、そのうち60代は78人と、次に多い50代(47人)を大きく上回る。団塊世代が定年期を迎え、生きがいと社会貢献を兼ねて参加したことなどが要因だ。30代(16人)20代(7人)はまだ少ないが、ピースボランティアでの体験が、次世代へと「ヒロシマ」を継承する力になっていくことだろう。

 試行錯誤をしながら積み上げていったボランティアたちの経験を束ねていけば、そこから被爆体験の記憶を次世代に伝えるための有効な方法も見いだせるかもしれない。学校や地域などへも応用できれば、その広がりは何倍にもなるだろう。

 原爆資料館に隣接する国立広島原爆死没者追悼平和祈念館には、被爆体験記や原爆詩などを朗読するボランティアも多い。さらに草の根平和団体や高校生のグループにも、資料館案内や碑巡りをしているところもある。

 原爆資料館が中心になって、「ヒロシマ」を伝えようとするさまざまなボランティアグループに声を掛け、交流会を開いてはどうだろう。各グループの体験を基に、成功例や失敗例、課題や悩みを話し合えば、そこからまた新たな発見もあるだろう。資料館にはこうした仲介役も果たしてもらいたい。

  (2009年7月6日朝刊掲載)

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