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社説・コラム

コラム 視点 「非核自治体は連携し、非核政策推進、日本政府へ働きかけを」

■センター長 田城 明

 「ノー・ユーロシマ」。1980年代初め、旧西ドイツなど欧州各地で反核運動が大きな盛り上がりをみせとき、参加者は口々にこう訴えた。「欧州を(廃虚の)ヒロシマにするな」の叫びは、旧ソ連の戦域核ミサイルSS20の東欧配備に対抗して、北大西洋条約機構(NATO)が、米国製戦域核ミサイルのパーシング2、巡航ミサイルを配備しようとしたことへの西側住民たちの反乱だった。

 「国家に任せていたら、核戦争が起きてしまう」「市民と自治体が立ち上がって、核配備を許さない非核地帯をつくっていこう」。こうした危機感から英国中西部の都市マンチェスターが1980年11月、市域全体を「非核兵器地帯」として最初に決議。その後、英国を中心に欧州各地に広がった。

 5年前の2004年、歴史的な決議がなされたマンチェスターの市議会を訪ねる機会があった。石造りの市議会棟ロビーには、「非核兵器地帯」の記念の文字が刻まれた、直径約30センチの赤い金属プレートが掲げられていた。「非核兵器地帯のこのサインは、反核行動を推進する上でのわれわれの精神的支柱」と、同市議会の非核自治体運営委員会担当者は、誇らしげに語ってくれた。

 欧州での非核自治体宣言運動は日本にも伝わり、1982年には広島県の府中町や愛知県の津島市が草分けとなった。当時、私も町議会で「非核・平和宣言」をして間もない徳島県の山あいにある小さな町などに取材に出かけ、住民の熱気に触れた。

 そして今ではその数、約1500、8割の自治体にのぼるという。これだけの自治体が、核兵器廃絶や不戦のための具体的な取り組みをし、政府にも積極的に非核三原則の法制化などを求めておれば、米国の「核の傘」に依存しない日本の安全保障政策の在り方に大きな影響を及ぼし得たろう。

 「核兵器のない世界」の実現をうたったオバマ米大統領。その政権下で今、議会が義務づけた今後の核政策の方針を決める「核態勢の見直し」が進んでいる。焦点の一つは、北朝鮮の核武装などを前に、日本政府、外務省が大幅な核軍縮や「核の傘」の効力を弱める先制核不使用宣言に反対していることだ。

 「核態勢の見直し」は年内に終わる。軍部や政策決定にかかわる人たちの中には「核の傘の強化を求める同盟国の要望を無視できない」として、オバマ大統領の積極的な核軍縮政策にブレーキをかける動きも目立つ。米国の核政策研究者や反核市民団体などからは、「今や被爆国日本が核軍縮・廃絶への障害になっている」との批判の声が上がっているのが実情である。

 多くの非核自治体は連携して、核軍縮促進に有効な核の先制不使用宣言を支持するよう、日本政府に働きかけてはどうだろう。オバマ大統領が唱える「核兵器なき世界」への道を政府が阻害するのを見過ごすようでは、非核宣言をしていることの意義が問われよう。

 「ノーユーロシマ」を訴えた欧州では、反核運動の盛り上がりから1988年、米ソ間の中短距離核廃棄条約(INF全廃条約)が締結され、核軍縮への大きな一歩となった。日本でも自治体や住民一人一人の核軍縮・廃絶への積極的な関与が、今あらためて求められる。

(2009年8月3日朝刊掲載)

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