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社説・コラム

ジュニアライターたち、活動通じ「視野広がる」

■センター長 田城 明

「こんにちは。新山です。覚えてくれていますか?」

 1カ月余り前の8月6日、平和記念式典終了後の原爆慰霊碑前でのこと。突然、声を掛けられた相手は、本紙の10代がつくる平和新聞「ひろしま国」で、初代のジュニアライターを務めた新山京子さん(19)だった。昨年9月から米オハイオ州の大学へ留学。1年ぶりの里帰りは、大学の関係者数人と一緒だった。

 留学を控えていろいろと話し合ったこともあり、彼女のことはよく覚えていた。留学生活について尋ねると、「学内で原爆展を開くなど、原爆被害の実態やヒロシマの平和への願いを伝えています」と、晴れやかに言った。「1年余り、ひろしま国に参加したことで視野が広がり、いま助かっています」とも。 留学先から「ヒロシマ平和メディアセンター」のウェブサイトにアクセスして、核問題や平和に関する必要な情報を入手。それを生かしてクラスでの討議にも役立てているという。

 米国では核問題やイラク戦争などをめぐって違った意見を持つ学生も多い。そんな中で、「ヒロシマの体験」に根ざして議論をし、若者たちの間に不戦・非核への共感の輪を広げているのだ。1年で随分たくましくなった、と感じた。

 新山さんが「視野が広がった」というとき、それは単に原爆投下の背景や原爆がもたらした被害、被爆者の苦しみや核兵器廃絶への取り組みなど「ヒロシマ」についての知識が深まったというだけではない。「ひろしま国」で取り上げるジュニアライターたちのテーマが実に多様だからだ。

 戦争が終わっても多くの人々が傷ついている地雷やクラスター爆弾の実態、飢えや病気で亡くなる多数のアフリカや南アジアの子どもたち、水や空気、森林伐採にまつわる環境の悪化、戦争や紛争に伴って生まれる難民、子どもたちにもできる国際貢献、主要8カ国(G8)下院議長会議への「世界こどもサミット」開催への働きかけ、オバマ大統領を広島へ招こうとのキャンペーン…。

 どのテーマも良く調べないと書けない。ちょっぴり勇気もないと取材できない。文字通り10代の子ども記者たちは、テーマ設定から取材、執筆まで悪戦苦闘の連続。その過程そのものが良き体験となり、視野を広めることにつながっているのだ。

 2007年1月の創刊号からこれまでにジュニアライターとしてかかわった人数は、新山さんを含め41人。現在、担当記者は56号を準備中だが、50号までをまとめた集大成が本として出版され、横浜市の日本新聞博物館では「ひろしま国」展が9月半ばまで開催中だ。

  「みんなの平和教室」と題して1年4カ月にわたり「ひろしま国」に寄稿してくれた日本紛争予防センター事務局長の瀬谷ルミ子さん。彼女も指摘するように、ヒロシマのことであれ、世界の出来事であれ、まず興味を抱き、知ることからすべてが始まる。かかわりは次のステップである。

 きっかけさえつかめば、子どもたちは私たち大人が考える以上に大きな力を発揮する。ユニークな平和への取り組みも生まれよう。そんなきっかけを与える場が、学校現場などでもっとほしいものだ。被爆体験や戦争体験を礎に、日本の若者たちが「平和をつくる」人材として、国際社会で一層活躍する姿を見たいものである。

           

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