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社説・コラム

社説 核密約調査 解明が信頼につながる

 くすぶり続けてきた核密約などの疑念が、ようやく国民の前に明らかにされる。これも政権交代の効用だろうか。

 岡田克也外相が、日米間の核持ち込みや沖縄返還などに関する密約について、藪中三十二外務事務次官に調査するよう指示した。11月末までにと期限を切った「大臣命令」である。

 自民党政権や外務省が一貫して否定し続けてきた密約をめぐり、鳩山由紀夫首相が「真相を国民に明らかにしたい」と発言。藪中氏も「新外相の指示に基づいて適切にやっていく」と協力姿勢を示している。すみやかに動きだした姿勢を評価したい。

 調査対象になっているのは、次の4点の密約だ。(1)1960年の日米安全保障条約改定時の核持ち込み(2)朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動(3)1972年の沖縄返還時の核持ち込み(4)沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わり。

 米軍による核兵器の日本への持ち込みは、日米安保改定で「事前協議」の対象だ。その裏で、核を積んだ艦船や飛行機の通過・寄港を日本側が黙認する「秘密議事録」が交わされたとされる。

 この密約は、米側の公文書で明らかになっている。日本側でも元事務次官の村田良平氏が今年6月、核を積んだ米軍艦船の立ち寄りを事前協議の対象外とする密約を「文書で引き継いできた」と証言している。

 沖縄返還をめぐり米軍用地の原状回復費400万ドルを肩代わりした密約については、元外務省アメリカ局長の吉野文六氏が存在を認めている。その密約を報道した元毎日新聞記者が、外務省極秘公電のコピーを入手したとして、国家公務員法違反で有罪になった。

 外務省は、調査チームを近く立ち上げる。精査が必要な外交文書はファイルで3200冊以上に上る。外部の有識者委員会を設けて、外務省OBの聞き取りや米国での調査も実施するという。詭弁(きべん)を重ねてきた過去を反省し、全容解明に尽力すべきである。

 外交には機密がつきものだ。ただ、国民の理解と信頼がなければ成り立たない。そのためにも、一定の期間が経過すれば情報公開し、検証できるようにすることが前提になる。

 来日したキャンベル米国務次官補は、核持ち込みの密約は「歴史的事実」との見解を表明した。米国では外交文書のきちんとした公開ルールができている。岡田外相は「外務省内で(可否を)決めている今のやり方を見直し、公開の仕組みをつくりたい」という。

 日米密約は、旧ソ連の核兵器増強という時代背景があった。だが、冷戦も終結し、米国は艦船から戦術核を撤去する。これによって密約の存在を否定し続ける意味も薄れたといわれる。

 核廃絶への国際世論が高まっている今こそ、国是である非核三原則の法制化が必要ではないか。密約の存在を逆手に取って三原則の「持ち込ませず」を除外しようとする動きを警戒したい。

(2009年9月22日朝刊掲載)

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