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社説・コラム

国連演説に思う 核廃絶へ歴史的な年に

■特別編集委員 田城明

   核兵器廃絶は決して夢物語ではない。開催中の国連総会でのオバマ米大統領ら各国首脳の演説に触れながら、いままでになくその思いを強くしている。潘基文(バンキムン)国連事務総長が言及しているように、恐らく2009年は、将来核廃絶が実現した折、人類の歴史にとって記念すべき年として記憶されるだろう。

 核保有国で最初に演壇に立ったオバマ大統領は、4月のプラハ演説を補強するように、核不拡散の取り組み強化や米ロ間でのさらなる核軍縮の促進、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准実現、核兵器の役割の減少などを訴えた。

 もう一つの核超大国ロシアのメドベージェフ大統領は、東欧への米ミサイル防衛(MD)の中止表明もあり、米国と歩調を合わせて核軍縮・核不拡散に積極的に取り組むことを表明。ブラウン英首相も、同国が保有する唯一の核戦力である潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の4隻の潜水艦を3隻に減らす国内手続きを取っていることを明らかにした。

危機意識を反映

 サルコジ仏大統領や胡錦涛国家主席は、自国の核軍縮には直接触れなかったものの、24日の核軍縮・不拡散を主題にした国連安全保障理事会では、「核なき世界」実現への決議案に賛同した。

 NPTで核保有を認められている5カ国を中心にした協力姿勢は、世界の非核保有国や非政府組織(NGO)による圧力が強まった証しでもあるだろう。一方で、それは核問題を含め、人類が直面する共通の課題に各国が協力して緊急に取り組まなければ、取り返しのつかない事態が起きるとの危機意識の反映でもある。

 核保有国、非保有国を問わず、各国首脳の演説の中で強調されたのが、気候変動や世界経済、貧困やテロ防止などへの対策である。昨年の米国の金融危機に端を発した世界経済の破綻(はたん)、進む地球温暖化、アフリカなどでの深刻な貧困、人口爆発、瞬く間に地球規模で拡大する新型インフルエンザ…。

強まる相互依存

 軍事力では対応できない問題が山積しているのだ。これらの課題を解決するには、世界の諸国家が協力するほかない。グローバリズムが進む中で、相互依存が想像以上に強まっているのである。

 2001年の「9・11米中枢同時テロ」を契機に始まったブッシュ前政権下の米国による「テロとの戦争」。8年間、国連はまともに機能せず、世界は暴力と憎悪の悪循環に陥り、核軍縮・廃絶への道も遠ざかった。

 だが、貧富の差の拡大や戦争に疲れた米国市民は「変革」を唱え、「核なき世界を目指す」と訴えて登場したオバマ氏を大統領に選んだ。それから9カ月。アフガン戦争や北朝鮮の核開発、イスラエル・パレスチナ問題、温暖化対策など地域・地球規模で抱える難題解決への取り組みは始まったばかりである。

被爆国が提起を

 ただ、ブッシュ政権下で失われた解決の条件である信頼、協力を土台にした国際関係は、間違いなく築かれつつある。「オバマ効果」といっても過言ではあるまい。

 「友愛」を政治信条とする鳩山由紀夫首相の世界へのデビューとなった国連外交。温暖化防止では、「鳩山イニシアチブ」と称して温室効果ガス排出量の大幅カットを表明、多くの国から評価された。

 だが、被爆国の首脳として一歩踏み込み、核の先制不使用を確約するよう核保有国に提起してほしかった。そのことが「核兵器の役割を減じる」というオバマ大統領の核政策を支援することになり、核廃絶への積極的な「イニシアチブ」となったであろう。

(2009年9月25日朝刊掲載)

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