×

社説・コラム

社説 「核なき世界」決議 実現へ被爆国が先頭に

 ヒロシマ・ナガサキの長年の訴えを、国際社会が目標として位置付けたことは、画期的である。国連安全保障理事会は全会一致で「核なき世界」決議を採択した。

 オバマ米大統領の呼びかけで、安保理が核軍縮に絞った首脳級会合を初めて開いた。常任理事国でもある「核クラブ」5カ国を含め15カ国がそろって核廃絶への決意を示したのも過去に例がない。「歴史的な決議」と言える。

 来年5月には、5年おきの核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。この決議を出発点にすれば、より大きな「成果」が期待できそうだ。

 核兵器廃絶を目指すには今、何をすべきか。決議には、課題が網羅的に盛り込まれている。

 まず、核クラブの米ロ英仏中に核軍縮を求める。NPTに加わっていない保有国のインドやパキスタン、イスラエルには加盟を要請。名指しは避けたが、核実験を強行した北朝鮮と、核査察を拒むイランには核放棄へプレッシャーをかける。

 核軍縮の枠組みを、既に核削減交渉を始めた米ロに加え、英仏中にも広げることができた。その意義は大きい。核超大国である米国が先導したからこそだろう。

 背景には、米国を中心に広がっている強い危機感がある。1998年のインド、パキスタンに続き、今世紀に入って、北朝鮮が核実験を強行した。イランも秘密裏に核開発を進めるなど、核拡散に歯止めがかからない。

 核兵器や関連技術がテロリストに渡る恐れも増している。核兵器そのものをなくし、核物質は平和利用する場合でも厳密に管理しなければ、世界の安全は守れない、というわけだ。

 もっとも今回の合意はあくまでも「総論」である。世界に2万発以上ある核兵器をいつまでに、どうやって減らすか、具体的な道筋を描くのはこれからだ。

 北朝鮮やイランをどう説得するかも、今のところ決め手はない。

 安保理では、日本も存在感を示した。鳩山由紀夫首相は「被爆国の責任を果たすため、核兵器を持たない強い意志がある」と演説し、非核三原則の堅持を誓った。内部には核武装論もくすぶる、従来の自民党政権との違いをアピールできたのではないか。

 ただ、米国の「核の傘」については言及しなかった。依存度をどうやって減らしていくかが新政権の大きな課題だろう。安全保障の在り方を論議する中で、米国への核先制不使用の呼びかけや北東アジア非核化構想などについて検討を重ねることが不可欠だ。

 鳩山首相は、世界の指導者に広島、長崎への訪問を求めた。核兵器の残虐性を理解してもらうことは核問題に対処する際の揺るがぬ「土台」となるに違いない。

 核廃絶の流れは、今回の決議でうねりになりつつある。「核なき世界」実現へどうつなげていくか。核戦争に勝者はいないことを身をもって示せる被爆国日本が、先頭に立つ必要がある。

(2009年9月26日朝刊掲載)

関連記事
「核なき世界」決議採択 安保理 初の首脳級会合 (09年9月25日)
指導者 広島・長崎へ 首相呼び掛け (09年9月25日)

年別アーカイブ