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社説・コラム

コラム 視点 「復興するカンボジアへ 被爆地から継続的医療支援を」

■センター長 田城 明

 5日間休みが続く初の「シルバーウイーク」を利用して、カンボジアへ赴いた広島の歯科医師や学生ら45人。一行はこの日も、現地の子どもたちの歯科検診や虫歯予防指導などにいそしんでいることだろう。

   カンボジアといえば、世界遺産に登録されているアンコールワット遺跡が有名である。一方で1975年から4年近く続いたポル・ポト政権下で、知識層をはじめ100万人以上といわれる人々が虐殺や飢え、疾病や強制労働などで命を失った「悲劇の地」としても知られる。

   1991年のパリ和平協定で約20年続いた内戦は終結した。だが、内戦などで使用された多数の地雷や不発弾が残り、今も人々に犠牲を強いているだけでなく、農業中心の国の発展をも妨げている。

 今回のカンボジア保健医療支援派遣団の一人、歯科医師の柄(つか)俊彦さん(62)は、自ら体験した被爆後間もない復興途上の貧しい時代の広島の姿とカンボジアの現状とが重なり合うという。決定的に違うのは、医学、教育、法律、農業、科学技術など各分野において指導層が圧倒的に少ないことだ。知識層の虐殺や焚書(ふんしょ)などで「国の歴史もよく分からない」と嘆くカンボジアの元外交官もいるほどである。

 今回の歯科検診を中心とした被爆地からの保健医療支援団の派遣は、その意味でも重要である。広島大の歯科医師や医師ら専門家が実際に治療し、現地の人たちの指導にも当たる。同時に首都プノンペンの大学と協力関係を結び、研修制度を設けて中・長期で人材を育てる。つながりを太く、長く続けていけば、大きな果実が実るだろう。それは、そのままカンボジア人の生活向上にもつながる。

 ベトナムでの支援活動などを続けてきた同僚の一人も、メンバーに加わっている。出発を前に彼はしみじみと言った。「仕事を持つごく普通の市民が現地へ行って何かできるのも、やはり平和が確保されているから。紛争地などへは誰でもが行けるものではない」

 平和貢献の場は、紛争地だけではない。紛争後の地で支援を必要としている人々は多い。普通の市民がさまざまな形で平和・国際貢献にかかわるとき、平和国家としての日本への信頼も高まるに違いない。

 「創(つく)り出す平和」を掲げてきた広島県も、大学や市民団体との協力を積極的に進めるべきだ。予算確保への努力を含め、平和貢献を単なるスローガンに終わらせてはならない。

(2009年9月21日朝刊掲載)

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