×

社説・コラム

核兵器「ゼロ」の道へ発言次々

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 江種則貴

 世界のリーダーが相次ぎ、核兵器廃絶へ向けて努力し行動する責務を口にしている。鳩山由紀夫首相も9月に国連本部で演説し「唯一の被爆国として先頭に立つ」と誓った。

 廃絶を確かなものにするための識者らの提言も続く。今月17日からは被爆地広島で、日本とオーストラリア政府の肝いりで発足した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の最終会合が始まる。メンバーが被爆地に触れることで、年内にもまとめる報告書をどこまで実りある内容にできるかが焦点だ。

 リーダーの指導力で果敢に決断し、効果的な具体策を着実に実行していく―。核兵器「ゼロ」への道を、3人の発言と3グループの提言(ICNND報告書草案を含む)から展望する。

 国連安全保障理事会特別首脳級会合での鳩山首相の演説は「唯一の被爆国の道義的責任として核兵器廃絶の先頭に立つ」と高らかに宣言した点がポイントだ。「歴史的演説」と評価されるオバマ米大統領の4月のプラハ演説が「唯一の原爆投下国の道義的責任」として廃絶努力を誓ったのと、言葉遣いも符合する。

 鳩山首相はさらに、日本の核武装を明確に否定し、非核三原則を堅持すると表明。核軍縮や不拡散はすべての国家の責任だと述べてスピーチを締めくくった。地球規模の取り組みを鼓舞する点でも、オバマ大統領の「人類の運命はわれわれの手にある」などと軌を一にする。

 この2人に先がけて「廃絶」を明言し、国際社会の取り組みを強く促したのが潘基文(バンキムン)国連事務総長だ。昨年10月に米ニューヨークでの会合で発言し、保有国が非保有国に対し核兵器の使用や威嚇をしないと誓う「消極的安全保障」を奨励。さらに、核兵器を明確に違法化する核兵器禁止条約に触れた点が画期的だった。

 核兵器の違法化や役割の減少は、世界の識者ら3グループの廃絶提言とも共通する考え方だ。

 秋葉忠利広島市長が会長を務める平和市長会議は、2020年の廃絶を目指す「2020ビジョン」や、その道筋を示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」で、新たな核兵器の取得や使用につながる行為を条約で禁止するよう提言している。

 カーター元米大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領らが名を連ねる識者グループ「グローバルゼロ」も、30年を目標にした廃絶を確実にするため、多国間協議の枠組み創設を提唱。非保有国も含めて「グローバルゼロ協定」を批准するよう説いている。

 一方、ICNNDの報告書草案は現時点で廃絶の目標年次を明示していない。廃絶が現実のものとして見え始める「バンテージポイント(眺望点)」に一刻も早く近づこうという考え方が特徴だ。

 今回の被爆地でのICNNDの会合は、「核兵器の先制不使用」を最終報告書に確実に盛り込むことができるか否かが最大の焦点となりそう。核兵器を反撃手段として使うことはあっても先制攻撃では使わない―と保有国が宣言することで核兵器の役割を減らしていく方策。中国はすでに宣言している。

 ところが被爆国日本政府はこれまで、「米国による先制不使用宣言」に難色を示してきた。米国が日本に差し掛けている「核の傘」の実効性を薄め、日本の安全保障を脅かしかねないというのが理由だ。

 一方、岡田克也外相は就任直後の記者会見で「倫理的にも、核兵器をなくしていく考え方からも、核の先制使用は認めがたい」との持論を展開した。非保有国への核兵器使用自体も「違法だという議論が成り立つ可能性がある」と言い切った。

 ICNNDは政府から独立した組織とはいえ、被爆国の政権交代は、廃絶に向けた議論を加速させるとの期待が膨らんでいる。


鳩山由紀夫首相の国連演説(骨子)

・8月6日と9日、広島と長崎で被爆者や被爆2世、3世の方々と直接話した。原爆投下から60年以上たった今日もなお、放射能の被害に苦しむ人々の姿を見て、心が詰まるのを禁じえなかった。世界の指導者もぜひ広島・長崎を訪れて核兵器の悲惨さを心に刻んでいただければと思う。

・われわれは核兵器開発の潜在能力があるにもかかわらず非核の道を歩んできたのは、核軍拡の連鎖を断ち切ることこそが、唯一の被爆国としての道義的な責任だと信じたからだ。私は今日、日本が非核三原則を堅持することをあらためて誓う。

・しかし、核保有国はいまだに膨大な数の核兵器を持ち、世界は核拡散の脅威にさらされている。だからこそ日本は、核廃絶に向けて先頭に立たなければならない。今こそわれわれは、行動しなければならない。

・第1に、核保有国に対し核軍縮を求める。透明性確保と情報開示が進めば信頼醸成が可能となる。非核兵器地帯の創設は、核軍縮と拡散防止、世界と地域の平和と安定という目的に資するものとなり得る。

・第2に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の早期交渉開始を強く訴える。「持てる国」の核兵器生産能力を凍結することは、核拡散防止条約(NPT)体制をより平等なものにするためにも不可欠。

・第3に、日本自身が積極的な外交を展開する。例えば、国連総会における核軍縮決議の提案、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の活動支援、国際原子力機関(IAEA)の技術・専門性および資源を強化するための取り組みを進める。

・第4に、新たな核拡散の動きに積極的に対応する。北朝鮮の核開発は断固として認めるわけにはいかない。核不拡散に果たす国連安全保障理事会の役割強化を求める。

・第5に、原子力平和利用は、保障措置・核セキュリティー・原子力安全の各項目について最高レベルの水準を順守することが必要だ。

・来年5月のNPT再検討会議までの間は、「核兵器のない世界」への現実的な第一歩を踏み出せるかどうかの決定的に重要な時期だ。核保有国であろうと、非核保有国であろうと、核軍縮・不拡散に向けて行動することは地球上のすべての国家の責任である。

                                   (9月24日、国連安保理首脳級特別会合)


オバマ米大統領のプラハ演説(骨子)

・何千もの核兵器は最も危険な冷戦の遺物だ。世界核戦争の脅威は減ったが、核攻撃の危険は増した。テロリストたちは核爆弾を買い取り、製造し、あるいは盗み取ろうと決意している。

・われわれはともに立ち上がらなくてはならない。核を持つ国として、そして核兵器を使用したことがある唯一の国として、米国には行動する道義的な責任がある。

・米国は核兵器なき世界の平和と安全保障を追求することを確信を持って宣言する。ゴールはおそらく、わたしが生きている間ではないだろう。しかし、「Yes we can(私たちにはできる)」。

・米国は核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る。冷戦思考に終止符を打つため、国家安全保障戦略における核兵器への依存度を下げ、他国にも同調を促す。ただ、これらの兵器が存在する限り、安全かつ効果的な兵器を維持して敵に対する抑止力を保ち、同盟国の防衛も保証する。

・弾頭数を減らすため、ロシアと新たな戦略兵器削減条約の交渉を進める。他のすべての核保有国にも削減への参加を求めていく。

・包括的核実験禁止条約(CTBT)批准にまい進する。兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始を目指す。

・核拡散防止条約(NPT)体制を強化する。条約強化のため、いくつかの原則を受け入れなければならない。国際査察強化のために、より多くの資源と権限が必要だ。ルールを破る国は即時に現実的な報いを受ける必要がある。

・北朝鮮が長距離弾道ミサイルに利用可能なロケットを試射し、またもやルールを破った。北朝鮮は、脅しや違法な兵器で安全や尊敬を得られないことを知るべきだ。

・テロリストが絶対に核兵器を入手しないようにしなければならない。(核の)闇市場を解体しなければならない。米国は1年以内に「世界核安全サミット」を主催する。

・核兵器のない世界と聞いて、達成が困難そうな目標を設定する価値があるのかといぶかしがる人もいる。しかし間違えてはならない。平和の追求をやめてしまえば、平和には永遠に手が届かなくなる。人類の運命はわれわれの手にある。より良き未来のために過去に敬意を表しよう。互いの相違を克服し、希望を信じ、世界を今よりも繁栄した、平和なものとするための責任を引き受けよう。

                                             (4月5日、チェコ・プラハ)


潘基文国連事務総長が提案した5項目

①各国とりわけ核兵器国が核軍縮交渉を行う。核兵器禁止条約の交渉開始の検討も可能

②国連安全保障理事会の常任理事国は、核軍縮の過程での安全保障問題についての協議を開始すべきだ。これらの国々は非核兵器国に対し、核兵器の使用や威嚇をしないと明確に保証することができる

③包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の即時交渉開始のための新たな努力が必要 ④核兵器国の説明責任と透明性の確保

⑤多くの補完的措置が必要。他の大量破壊兵器の廃絶、通常兵器の生産や取引の制限、ミサイルや宇宙兵器を含む新型兵器の禁止など

                                     (2008年10月24日、米ニューヨーク)

(2009年10月5日朝刊掲載)

この記事へのコメントを送信するには、下記をクリックして下さい。いただいたコメントをサイト管理者が適宜、掲載致します。コメントは、中国新聞紙上に掲載させていただくこともあります。


年別アーカイブ