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社説・コラム

コラム 視点 「被爆国の『道義的責任』言明、鳩山政権は核廃絶へ主導を」

■センター長 田城 明 

 プラハ演説で原爆投下国としての「道義的責任」に言及したバラク・オバマ米大統領。就任間もない鳩山由紀夫首相も、国連の場で被爆国としての「道義的責任」について触れた。

 2人の首脳の言葉は、マッカーシー旋風が吹き荒れる中、核実験に反対するなど熱心に平和運動に取り組んだ米国の著名な物理・化学者ライナス・ポーリング博士(1901~1994年)の言葉を思い出させた。博士が亡くなる1カ月前、カリフォルニア州ビッグサーの別荘でインタビューした際の言葉である。

   「原爆を投下した米国人と、その悲惨を体験した日本人は、核兵器廃絶や世界平和のために、それぞれに大きな役割と責任を負っている。その自覚を忘れないで、リーダーシップを発揮してほしい」

 これまで核兵器廃絶のために取り組んできた被爆者ら多くの日本人や米国人。彼らの大多数は、被爆国・投下国であることを意識しつつ、その「役割と責任」を果たそうとしてきたのではないだろうか。ただ、日米の首脳がおのおの「道義的責任」を口にし、「核廃絶の先頭に立つ」と誓ったのは初めてのことだ。

 先の国連総会や安全保障理事会の首脳級特別会合が示したように、「地球社会」は今、核兵器廃絶に向けて大きな一歩を踏み出した。しかし、前途にはなお「核抑止力信仰」や「国家利益優先」「相互不信」など乗り越えなければならない高い壁が待っている。

 これらの障壁を越えるために、被爆国として鳩山政権が優先して取り組むべきは何か。まず原爆被害の実態を核保有国など世界中に伝え、核兵器は「国際法違法」との規範を強めることだ。また、核兵器の使用や威嚇を非保有国に対して行わないよう、すべての核保有国に誓約を求めるべきだ。同時に核保有国に対して、「先制不使用」を約束させることである。先制不使用と非保有国への核攻撃禁止は、単なる口約束ではなく、来年5月に開催される核拡散防止条約(NPT)再検討会議の場を生かすなどして法的拘束力をもたせることが肝要だ。

 こうした取り組みは、オバマ大統領が目指す核兵器の役割を減少させ、米ロ核超大国間の大幅な核軍縮や他の核保有国の軍縮にも効果を発揮するだろう。そして、やがては核兵器禁止条約へとつながっていくに違いない。包括的核実験禁止条約(CTBT)の成立促進や兵器用核分裂物質禁止条約(カットオフ条約)の交渉開始、核兵器や核物質がテロリストの手に渡らないための国際協力強化―なども並行して取り組むべきだろう。

 さらに言えば、米国の「核の傘」から抜け出す勇気を持つことである。先ごろ、米戦術核の配備撤去を求めたベルギー議会の決断は好例である。非保有国が核抑止力に依存していること自体、核保有国間の軍縮の障害になっているとの認識からである。被爆国といいながら、「核の傘」に安全保障を委ねる限り、核廃絶の訴えに説得力は生まれない。

(2009年10月5日朝刊掲載)

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