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社説・コラム

社説 核不拡散委広島会合 これでは踏み込み不足

 被爆地で「核なき世界」の道筋を議論したにしては物足りない。広島市で開かれていた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の最終会合がきのう終わった。来年1月に報告書を公表するという。

 2025年までに世界の核兵器を大きく減らし、保有国が「先制不使用」を宣言する。そんな中身で合意したようだ。ただ「全廃」の期限までは決めなかった。

 もっと踏み込めなかったか。これでは一日も早い廃絶を望む被爆者の思いとの隔たりは大きい。

 ICNNDは、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議への機運を高める目的で、日豪両政府の主導で設立された。

 両国の外務省に事務局を置き、核保有7カ国を含む15カ国の政治家や元外交官ら15人が委員。昨年10月以来、米ロなどで会合を開いてきた。個人の立場であり、提言にも拘束力はないが、各国の政策への反映も期待されている。

 最後に被爆地で開いたのは、思いを新たにして詰めの議論をするためだろう。初日の17日には原爆資料館の見学や被爆者代表との対話で心を動かされる委員もいた。その結果、核兵器の「残虐性」や「非人道性」を報告書に明記することになった。

 ただ被爆者らは会議自体には参加できなかった。核兵器をなくすというより、各国の最大公約数となる現実的な削減プロセスの議論に終始したようだ。

 非公開であり、どの委員が発言したかも明らかにされない。おそらく一部保有国の反対があったのだろう。当初の「25年までに核兵器を1千発以下に」とした目標も修正されたとみられる。きのうの段階では、具体的な削減目標すら公表されなかった。

 「先制不使用」も後退した。草案には「来年のNPT再検討会議までに米大統領がまず不使用宣言を検討する」という画期的な内容が盛り込まれていた。これも2025年にすべての国で、という当たり障りのない話になった。

 オバマ米大統領の4月のプラハ演説で、歯車は回りだしている。9月には国連安全保障理事会が「廃絶」への決意を全会一致で表明。米国は2012年までに核兵器を5千発に半減すると言明した。ICNNDができたころには考えられないようなスピードだ。

 共同議長のエバンズ元豪外相は「ばら色の理想ではなく、現実的な内容にした」と説明する。だが廃絶を求める声の高まりを考えるなら、未来に向けて、さらに先んじていいはずだ。国際世論へのインパクトに欠ける。

 鳩山由紀夫首相は国連総会で核兵器廃絶の先頭に立つと、世界に約束した。岡田克也外相も、米国に対して先制不使用を呼び掛けたい、との考えを示している。こうした新政権の外交方針も、敏感に反映していない。

 議論の内容は近く鳩山首相らに報告されるという。政府はその結論にとどまらず、廃絶に向けて一歩先の行動につなげるべきだ。

(2009年10月21日朝刊掲載)

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