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社説・コラム

被爆地訪問オバマ氏意欲 日米「真の和解」の場に

■特別編集委員 田城明

 「在任中にいつか、訪問することができれば、名誉なことだ」―オバマ米大統領が、初めて本人の口から被爆地広島・長崎両市訪問に積極的な姿勢を示した。米国内ではなお原爆投下を肯定する世論が根強いだけに、訪問の意思を明確に表明したことをまず率直に評価したい。

 オバマ氏の被爆地招請の動きは、1年余り前から始まった。核超大国の大統領候補が「核兵器のない世界を目指す」という選挙キャンペーンに心を動かされたのは、米国民以上に、核廃絶を悲願とする被爆地市民であっても不思議ではない。

 次期大統領に決まった昨年11月には、被爆者だけでなく、本紙のジュニアライターがつくる「ひろしま国」でも紙面を通じて、オバマ氏に広島訪問を呼び掛ける手紙を募集。335通の手紙が集まり、後に届けられた。広島の高校生ら有志も先月、米有力紙で「原爆被害の実態と広島市民の平和への熱い思いに直接触れてほしい」と大統領に訴えた。

 広島市の秋葉忠利市長と長崎市の田上富久市長は5月、直接ワシントンに出向いて被爆地訪問を熱心に働きかけた。

 オバマ大統領や同政権から、これまで被爆地招請への働きかけに対し、具体的な反応はなかった。しかし、被爆地からの真摯(しんし)な呼びかけは、確実にオバマ氏の心に届いていたに違いない。

 「オバマ頼みになってはいけない」「オバマ大統領が被爆地を訪問したからすぐに核兵器が無くなるわけではない」「アフガニスタンで戦争を続けていることを忘れるな」…。

 もっともな指摘である。核兵器を保有する国がある限り「核抑止力を維持する」というオバマ氏のプラハ演説を引くまでもなく、一国の努力だけで核兵器はなくならない。その意味で、先に広島・長崎両市長が核保有国の在日大使館を訪れ、各国首脳の被爆地訪問を要請したように、多面的な努力が不可欠だ。

 しかしなお、原爆投下国の現役大統領が広島・長崎を訪問する意義は計り知れず大きい。それは単に世界的に高まりつつある核廃絶への潮流を加速させることへの期待だけではない。

 戦後、日米の多くの市民は憎しみを超え、互いに信頼や友情を築いてきた。ところが、日米同盟を結ぶ政府間レベルではなおきちっとした和解ができていない。そのわだかまりは、第2次世界大戦時の日本による真珠湾への奇襲攻撃と米国による広島・長崎への原爆投下が深い影を落としている。

 大統領の被爆地訪問を日米の「真の和解」の場にすることも重要である。その意味で、鳩山由紀夫首相も真珠湾のアリゾナ記念館を訪れて花輪をささげ、大戦の犠牲者に哀悼の言葉を述べるべきだろう。そのことが、大統領の被爆地訪問に対する米世論の反発を和らげることにつながる。

 原爆投下国と被害国が互いに協力して核兵器廃絶と平和な世界構築のためにリーダーシップを発揮する。オバマ大統領の広島・長崎訪問がこうした機会につながることこそ、被爆地市民が求めるものである。可能な限り早くこのような訪問が実現するよう、政府も市民も取り組みを強めたい。

(2009年11月11日朝刊掲載)

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