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社説・コラム

オバマ大統領演説 広島修道大・大島教授に聞く 核廃絶 具体論なし

■記者 吉原圭介

 来日したオバマ米大統領は被爆国の国民に何を語りかけたのか。共同通信ワシントン支局長などを務めた広島修道大法学部の大島寛教授(61)に、14日のアジア政策演説を軸に読み解いてもらった。

 全体的にオバマ氏らしい、格調高く力強い演説だった。アジアの聴衆を意識した、プラハやカイロに続く主要な外交演説との位置づけ。そのため、具体的というより理念的な内容になった感はある。

 アジアへの高い関心という点で、ブッシュ前政権との違いは明確だった。米国を「太平洋国家だ」と言い、アジアとの協調なくして米国の将来はないとの認識も示した。特に中国については、競うのではなく、協力を深めると言った。今後の対中政策の基調になるだろう。

 また日米関係の深化を強調した。米国と日本両国の政権交代により、同盟関係も以前とは変わる。安全保障や軍事面だけではない。「相互の利益」「お互いの尊重」などの言葉もあった。これらに基づき双方が活性化すれば、国民の理解を得られるだろう。

 一方、演説が具体的に、核兵器廃絶や米軍基地問題など日本の切実な課題にこたえたかというと、そうはならなかった。

 「核兵器がどんなものかは日米両国が世界で一番分かっている」と言い、核兵器のない世界を目指すと口にした。しかし、プラハ演説と同様、核兵器が存在する限り日韓を含む同盟国に強力で効果的な核抑止力の提供を約束するとも明言した。

 大事なのは、日本がそれを求めているという前提があっての話だということだ。日本が「核の傘は不要」として核兵器の役割を低減させる姿勢を示せば、米国の核軍縮につながることを示している。

 今回の来日では被爆地の願いは届かなかった。13日の記者会見で原爆投下に対する認識を問われても意図的に答えなかったし、広島訪問もできなかった。米軍の最高司令官である大統領としては、言えることと言えないこと、できることとできないことがあったのだろう。

 背景には、広島訪問はすなわち謝罪につながると考える米国の保守的な世論の強さがあり、アフガニスタンと医療改革が喫緊の課題となっている現状で、核兵器問題の優先順位が低い点がある。

 ただ被爆地訪問の意向を示したことは確かであり、問題は時期になった。広島としてはオバマ氏が決断できるような環境づくりを続けるべきだ。それは引き続き、訪問を呼び掛ける声を上げることだろう。(談)

(2009年11月15日朝刊掲載)

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