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社説・コラム

社説 中国地方の視点から ドーム景観計画 理念に立ち戻り議論を

 平和記念公園を歩いて目に入るのは、高いビルやマンションだ。世界遺産の原爆ドームが、その中で埋没してしまっている。

 何とかしたいと広島市が打ち出したのが周辺の高さ制限だ。昨年7月にまとめた景観計画の素案に盛り込んだ。だが反発する地権者らとの話し合いは行き詰まり、仕切り直しを余儀なくされている。

 国内外から多くの人が訪れ、平和を祈る場所。それにふさわしい景観を守るためには、一定の規制はやむを得まい。どんな方法がベターなのか。課題を整理し、いま一度、議論を尽くしてほしい。

 市の規制は、4年前に施行された景観法に基づく。公園周辺の81ヘクタールが計画の対象。世界遺産のバファーゾーン(緩衝地帯)、さらに跡地の議論が続く旧広島市民球場一帯の高さを規制する。

 25メートルのドームとの位置関係に応じ20~50メートルの上限を設ける。新築や改築で、それを超える計画が出れば「勧告」の対象となる。

 現時点では該当するのは約20の建物。分譲マンションの場合には建て替えで戸数が減るため、資産評価が下がってしまう、と住民たちは心配している。

 「景観は公共の利益」との考えは定着してきた。当事者の多くも何らかの規制は認める。だが市が資産価値の補償はしないと表明したことから、こじれてきた。

 今年になって、反対住民や地権者らが「白紙撤回」を求めて市議会に請願し、7月に採択された。このままでは前に進まないと、市は地元に一定の配慮をした打開策を検討しているという。

 ただ、ここで詰めるべきは何より理念だろう。平和を祈る環境をどう整えるか。世界遺産のバファーゾーンとしての良好な景観を求める国際的な流れに、どう配慮するか。

 一部には、ドーム周辺にビルが林立する光景こそ、復興の象徴だとする意見もある。コンセンサスを得るために、意見をぶつけあう場も必要だろう。

 市は景観保全のために「社会的な制約」は仕方ないとする。ならば将来的な意味と価値について、より丁寧に説明すべきだ。

 ただ市は、これまで景観を守る十分な手を打たず、後手に回ってきた。ドームが世界遺産となって13年もたつのに、高さ制限に乗りだしたのは3年前。近くにできた高層マンション問題で対応の甘さを批判され、拘束力のない要綱をつくったのが始まりだ。

 地元からすれば、急ごしらえの印象も否めない。議論次第では、調整の余地もあろう。

 今月、視察に訪れた国際記念物遺跡会議のアローズ会長は「平和を静かに考える環境が失われつつあるのでは」と指摘した。そのうえで開かれた対話によって解決できる、との考えを示した。

 市は景観を守る気構えを強く示してほしい。場合によっては周辺の用地を買い取る選択肢もあろう。球場跡地も含め、都市のにぎわいとどう両立させていくか。長いスパンでの議論を深めたい。

(2009年11月30日朝刊掲載)

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