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社説・コラム

社説 原爆症基金法 認定基準の見直し急げ

 原爆症認定訴訟の原告全員に手を差し伸べる仕組みが、ようやく整う。集団訴訟の敗訴原告を救済する基金に国が補助する法律が、きのう国会で成立した。

 今年8月に前政権と原告側が全面解決に向けた確認書を交わしてから4カ月。新政権の下での、与野党の議員提案による速やかな立法措置をまずは評価したい。

 最初の集団提訴からは6年余りたった。「原爆のせいだと認めてほしい」と約300人の原告が病を押して法廷に立ってきた。勝訴者は、国が控訴をせず判決が確定したが、敗訴した人は突き放されたような思いを抱いていよう。そんな心情もくみとりながら、来年度からの基金の運用について早急に詰めねばならない。

 残された大きな課題は、原告以外に約8千人に上る審査待ちの被爆者への対応である。新たな訴訟を招かないためにも、被爆の実態に沿った基準への見直しを急いでほしい。

 基金は、政府の補助金3億円を得て創設。受け皿となる法人は、原告・弁護団が中心になって運営する。敗訴して原爆症と認められず、月額13万7千円の医療特別手当が支給されていない原告への金銭補償を行う。

 これまでに敗訴して認定されていない原告は15人。まだ係争中の原告もおり、計30人程度が対象になるのではないかと原告・弁護団はみている。

 ただ問題は、基金ができても認定却下がこれからも相次げば、それを不服とした提訴が繰り返される恐れが強いことだ。認定制度の抜本的な見直しが欠かせない。

 従来は、原爆症と認定される被爆者は全体の1%足らずだった。昨年4月に基準を見直したが、入市被爆時の残留放射線の影響や、がんなど特定疾患以外の認定について、まだ条件が厳しすぎるとの指摘もある。

 司法の場で国が8月までに19連敗を続けたことが、政治主導による集団訴訟の全面解決につながった。おとといも横浜地裁で4人の原告が、現行基準で認定されなかったのに原爆症と認められた。少なくとも、裁判所の物差しに追い付く形での認定基準の緩和は急務である。

 民主党はマニフェストに被爆者の早期救済をうたい、被爆実態を反映した新しい原爆症認定制度の創設を盛り込んでいる。鳩山由紀夫首相も、制度見直しへ積極的な姿勢を被団協代表に約束した。

 8月の確認書で、厚生労働大臣と日本被団協、原告・弁護団は定期協議の場を設けることになっている。基準見直しなどを話し合う場になるはずが、まだ開かれていない。長妻昭厚労相は会見で参加の意向を示しており、できれば年内の開催が望ましい。

 被爆者の平均年齢は76歳になる。国内の原爆症認定は解決に向け一歩を踏み出したが、在外被爆者については現地での認定申請もまだ実現していない。被爆者援護の抜本的な見直しに向けて、さらなる政治主導の発揮を求めたい。

(2009年12月2日朝刊掲載)

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