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虫歯の怖さ「知ったよ」 カンボジア 広島のNPO 児童に歯科支援

■記者 桑島美帆

 NPO法人「平和貢献NGOsひろしま」が21日から2日間、広島大歯学部を中心に、カンボジア農村部の小学校で歯科医療支援を実施した。1970年代にポル・ポト政権による大虐殺やベトナム軍侵攻で混乱が続いたカンボジアでは、内戦終結から約20年を経た今も、歯科医師が不足。虫歯を予防する教育も浸透していない。支援活動に同行して見た現状をリポートする。

 世界遺産のアンコール遺跡が点在するシェムリアップ州の中心部から、車で北西へ約30分の地にあるササースダム小。明かりのない薄暗い教室で、歯ブラシを握りしめた子どもたちの瞳が輝く。鉄格子をはめた窓は、教室をのぞき込む子どもや母親であふれた。

 「何か食べたら必ず歯磨きをしましょう。歯ブラシを縦や横に細かく動かして丁寧に磨いてね」。広島大歯学部3年の川野沙織さん(20)たちが、子どもたちに通訳を通じて語りかける。歯磨きをしないで寝てしまった白雪姫が虫歯だらけになってしまう、という紙芝居も披露した。

 歯科検診も歯磨きの授業も初めて受けたという6年生のナッ・ワン・ディーさん(12)は、あめが大好き。「虫歯の怖さを知らなかった。今日から歯の裏も磨きます」。9歳の三女と参加したニョッム・ガーさん(40)は、4人の子を育てる母親。「歯磨きは朝起きたときに一度だけ。親にそう習ったし、子どもたちにも何となくそう教えてきた」とニョッムさん。近所に歯科医院はなく、歯の検診を受けたことはない。

 初日の歯科検診に集まった児童は366人。香西克之歯学科長(53)ら歯科医師7人が、学生と組んで子どもたちの歯の状態を細かく調べた。小児歯科専門の香西歯学科長は「6歳臼歯がすでに虫歯だったり、小学生なのに歯垢(しこう)がたまっていたり、とにかくみんなひどい」と驚く。

 カンボジア保健省口腔(こうくう)保健局のハック・シトーン局長(46)によると、カンボジアの地方の小学校で虫歯予防の指導に取り組む小学校はわずか1%。同局は11月から、地方の小学校での歯磨き指導を重点化する予定だ。

 麻酔科医や内科医ら45人で編成した今回の保健医療支援団には、広島大と広島経済大の学生21人が同行。器具や手袋など消耗品は広島南ロータリークラブが提供した。

 大半の学生にとっては、初の海外ボランティアだ。歯科衛生士を目指す川野さんは「発展途上国はテレビでしか見たことがない。子どもたちが一生懸命話を聞いてくれ、仕事にやりがいを感じた」と振り返る。

 「国連機関などによる海外援助は、口腔衛生指導まで手が回らない」とハック局長。「広島の大学生たちに、ササースダム小に限らず、国内全域の小学校の虫歯予防に長期的にかかわってほしい」と大きな期待を寄せる。

 じっとしているだけで汗が噴き出る暑さの中で活動に励む被爆地の医師や学生たち。彼ら一人一人の取り組みが、この国の歯科医療の復興に確実につながっている、と感じた。


保健省口腔保健局 ハック・シトーン局長に聞く

 カンボジアの歯科医療の実情についてハック・シトーン保健省口腔保健局長に聞いた。

 -なぜカンボジアでは、歯科医療が遅れているのですか。
 ポル・ポト政権下で多数の歯科医が殺され約30人しか生き残らなかった。現在450人程度まで増えたが、首都プノンペンに集中している。海外からの医療支援は、エイズウイルス(HIV)やマラリアなど感染症対策が優先され、生命に直結しない歯科医療は後回しになってきた。

  -最優先すべき課題は何でしょう。
 地方の貧しい人々は、歯磨きへの関心が低く習慣がない。11月から、国内960カ所の保健センターの助産師を対象に、虫歯予防の指導を始める。助産師から若い母親に歯磨きの大切さを伝えてもらうためだ。だが、予算も人員も限られるためどこまで実現できるか分からない。

 -広島発の支援に期待することは。
 まず、広島大と王立健康科学大との提携は、われわれにとって非常に大きな意味を持つ。歯科医を育てている国内の2大学では、設備も人材も整わず、高度な歯科医療研究を続けることは不可能。広島大へ留学した学生に、国の歯科治療や公衆衛生の向上を担ってもらいたい。広島の若い世代には、戦争の傷あとが残るカンボジアで、貧しい国の現実と向き合ってほしい。

(2009年9月28日朝刊掲載)

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