×

社説・コラム

NATO配備の米戦術核の行方 ドイツ、オリバー・マイヤー特別研究員に聞く

■記者 金崎由美

 米国の戦術核が配備されている北大西洋条約機構(NATO)。ドイツでは撤去を求める声の高まりを受け、メルケル首相は昨年10月、連立政権の合意文に撤去を目指すと盛り込んだ。このほど来日した同国のハンブルク大付属平和研究・安全保障政策研究所のオリバー・マイヤー特別研究員(45)に、東京都内で現状を聞いた。

 ―メルケル政権はなぜ、撤去を求める方針を打ち出したのですか。
 米国のオバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界」と核拡散防止条約(NPT)強化を唱え、各国政府が支持したことが大きい。表立って語られてこなかった問題が、国内外の世論の高まりに押された形だ。

 戦術核が配備されているドイツ、オランダ、ベルギーを含む欧州5カ国の外相は今年2月末、核政策を議論するよう訴える書簡をNATOのラスムセン事務総長に送った。ポーランドとスウェーデンの外相も連名で、戦術核の削減を求める記事を米紙に寄稿している。

 ただNATOの意思決定は全会一致が原則。ロシアを警戒する中欧諸国は撤去に強く反対しており、28加盟国すべての賛成を得るのは簡単ではない。

 ―戦術核を撤去すれば、有事の「核共有」も解消されますか。
 常時配備をやめても、基地内の核施設を温存する限り、いざという場合の核共有は理論的に可能だ。だから「ドイツの主張は中途半端」という批判もある。的を射ている。

 ドイツなどが「核共有」という広義の課題に対してどんなスタンスを取っていくのか、まだ見えてこない。

 米国は近く「核体制の見直し(NPR)」をまとめ、4月下旬にはエストニアでNATO外相会議がある。NATOは11月中旬には核政策を含む長期方針「新戦略概念」をつくる。それまでに加盟国の間で「戦術核は時代遅れで、なくしても安全保障上の変化はない」という理解を広める必要がある。

 ―日本とドイツが国際的に果たせる役割は。
 米国の「核の傘」の下にある両国は、核兵器への依存度を下げる努力を率先するべきだ。まずは「核兵器の唯一の役割は核攻撃の抑止に限定する」ことを支持するのが重要だ。

 課題はある。日本では、岡田克也外相が踏み込んだ発言をし、「唯一の役割」「核の先制不使用」をめぐる議論が活発になっている。しかし、彼の周辺にいる官僚や専門家からは必ずしも支持されていないようだ。

 ドイツでは、議論が核兵器の配備自体にとどまりがちだ。NATOでは米国に加えて英国やフランスも核兵器を保有し、特にフランスは核の先制使用戦略にこだわっている。そのため、核の役割をどう減らすかという議論に発展しにくいのだ。

 5月のNPT再検討会議が近づいている。核兵器廃絶を支持する、というシグナルを両国が一致して送ってほしい。会議の盛り上げにつながる。

オリバー・マイヤ
 1964年旧西ドイツ生まれ。ベルリン自由大で博士号(政治学)取得。雑誌「アームズ・コントロール・トゥデー」を発行する米国「軍備管理協会」の国際代表も務める。

NATOの戦術核
 米軍の核爆弾B61約200発が、NATOの核戦力として欧州5カ国の空軍基地に配備されているとされる。

 冷戦期からの「核共有」政策により、有事には受け入れ国に譲り渡される。非核保有国による事実上の核保有であり、NPT違反という批判が根強い。

(2010年3月18日朝刊掲載)

関連記事
ヒロシマと世界:米戦術核配備のNATO諸国 撤廃へ動き拡大(10年3月 1日)

年別アーカイブ