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社説・コラム

広島の高校生 米国訪問 核廃絶の願い共有

■記者 明知隼二

 核兵器廃絶を目指して活動する「中高生ノーニュークネットワーク広島」の高校生が3月下旬、米国の首都ワシントンを訪れた。広島学院高3年の金森雄司君(17)、広島女学院高3年の高本友子さん(17)、修道高2年の岡田悠輝君(16)の3人。二つの学校を訪ね、同世代の若者たちに原爆被害の悲惨さを訴え、戦争や平和について意見を交わした。被爆地の若者は原爆投下国で何を語り、どう感じたのか。「平和大使」の1週間を振り返る。

 広島の高校生3人の訪問校の一つが、ワシントンから車で約1時間の私立フレンズ・ミーティング・スクール(メリーランド州)だ。

 3人は、原爆投下により広島では1945年末までに約14万人が亡くなったとされていること、被爆の10年後に白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんのように、放射線の影響は長く続き、多くの人が命を落としたことを説明した。7~15歳の44人は真剣な表情で聞き入り、続くグループ討議で次々と質問を投げかけた。

■惨状を伝える

 高本さんは、爆心地から約1.5キロで被爆した祖母が「思い出したくない」と体験をほとんど口にしなかったことを話した。「今も放射線の影響で苦しむ人はいるのか」と問われると「大勢いる」ときっぱり。「ただ、高齢化が進み、私たちが直接話を聞ける最後の世代。だからこそ責任があるし、米国のみんなに伝えたいと思った」と続けた。

 さらに、被爆者から聞いた当時の広島の惨状も話した。皮膚がただれ、目が飛び出し、死体は黒焦げ―。顔をしかめる生徒たちに高本さんは「ひどいと思うだけでなく、核兵器をなくすための一歩を踏み出してほしい」と語りかけた。

■抑止力を議論

 そのころ金森君のグループでは、核兵器の存在と核抑止が話題に上っていた。「米ソの核軍拡のバランスが核戦争を防いだのでは」との投げかけに、「必ずしも否定はできないけど、相手の武器に対抗してこちらも武装するという発想では、ずっと敵同士のままだ。絶対に良い関係は築けない」と金森君。

 米国側の別の生徒が話を継いでくれた。「イラク戦争の引き金は大量破壊兵器の有無だった。核のような兵器は、その存在そのものが平和を脅かす」

 岡田君のグループも核拡散がテーマとなった。「北朝鮮などは『自国を守る』との名目で核を持とうとする。それを避けるには暴力や脅しではなく、話し合いで問題を解決する姿勢が重要だ」。最後に意見は一致した。

 原爆投下国での同世代との交流は、広島の高校生たちにとっても平和をめぐる視野を広げる機会となった。もう一つの訪問校、公立ルーズベルト高はワシントン中心部から地下鉄で北へ20分ほど。古びたれんが造りの建物で3人を迎えたのは、金属探知と手荷物検査。その先の教室で待っていてくれたのは、中南米からの移民やアフリカ系の生徒たち27人だった。会話にスペイン語が交じる。

■平和観で一致

 ルーズベルト高で移民や貧困層の生徒たちを支援するナナ・アマ・ベンツィ=エンチルさんによると、同高の卒業率は平均で約7割。言葉の壁がある移民や貧しい家庭の生徒はさらに低く、薬物やギャングのトラブルに巻き込まれるケースも少なくないという。

 金森君が「一人一人が自分にかかわりのある『平和』に取り組むことが大事だと思う」と力を込めた。その呼び掛けに、リカ・スプリッグスさん(15)は「地域には貧困に苦しむ人やホームレスがたくさんいる。私にとって平和とは、すべての人が健康な生活を送れること。地域での問題解決にもっと力を入れたい」と応じた。

 「私たちは核兵器廃絶を訴えに来た。けれども、平和にかかわる問題はそれだけではない。米国では移民や格差の問題が切実だと感じた」と3人。核大国の現実に触れた。


金森雄司君

平和考える契機になれば

 現地の平和活動家の方と会話した際に「原爆がなければ平和について考えなかったとしたら、それは悲しいことだね」と言われ、ハッとした。東京に生まれていたら、僕も原爆や平和について考えなかったかもしれない。ただ、だからこそたまたま広島に生まれ、平和に関心を持った僕たちが行動することに意味があるのだと思う。

 米国の高校生に発表したとき、言葉の壁はあったけど、表情や声の変化から、僕らの言葉が胸に響いているとはっきり分かった。原爆や平和について考えるきっかけになったのなら本当にうれしい。

高本友子さん

若者の心動かすのは若者

 私自身、平和学習に興味を持てない時期があったが、真剣に平和活動に取り組む先輩たちの姿に心を動かされた。若者の心を動かすのは若者だと思う。

 米国の若者は、想像していた以上に真剣に私たちに向き合ってくれた。同世代の人間に被爆した家族がいるという事実が、教科書で学ぶことよりも生々しく伝わったのだとすれば、私が訪米した意味があったと思う。

 原爆投下の肯定論を警戒するだけでなく、「核兵器廃絶への思いは共有できる」との希望を持っていいと気付いた。この経験は今後、私の支えになる。

岡田悠輝君

熱心に耳を傾けてくれた

 ルーズベルト高で発表を終えた時、たくさんの生徒が「もっと写真を見せて」と集まってきた。また、禎子さんの物語を聞き、心を込めて折り鶴を折ってくれた。原爆投下国の若者が、僕たちの核兵器廃絶への思いを受け止めてくれたと感じる。

 フレンズ校では生徒から「米国でも同世代の多くが原爆投下は悪いことだと考えている」と聞いた。核大国でも次世代は核兵器の怖さを分かってくれている。そのことに希望を感じた。

 最後に、折り鶴に思いを込めてくれた市民のみなさんにお礼を言いたい。


活動の経緯

 核兵器のない世界を目指して活動する「中高生ノーニュークネットワーク広島」は昨年5月に結成。核兵器廃絶への願いを込めた折り鶴づくりを市民に呼び掛け、それをオバマ米大統領のもとに届けて広島訪問を呼び掛けることを目標に活動してきた。被爆地で、平和を求める市民や若者の思いを肌で感じてほしいとの思いからだ。

 折り鶴は、世界に現存する核弾頭数の2万3千以上を目指し、最終的には約4万5千羽が寄せられた。今回の訪米の際、大統領の広島訪問を求める手紙とともに、うち千羽をデニス・クシニッチ下院議員(民主党)に託した。

 残りの約4万4千羽も3月末、ホワイトハウスあてに発送した。

(2010年4月5日朝刊掲載)

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