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社説・コラム

コラム 視点「平和大使」として活躍する被爆地の高校生たち

■センター長 田城 明

 「高校生世代でも、被爆者のメッセージはしっかり伝えることができる」。米国の首都ワシントンや近郊での「平和の旅」を終えた広島の高校生3人の帰国に合わせるように、元ジャーナリストのダイアナ・ルースさんからメールが届いた。

 今回の旅に現地で合流し、同行したルースさん。被爆者の証言を本にまとめるなど、自らも「ヒロシマ・ナガサキの体験」を米国民に伝え、核廃絶を訴え続ける。そんな彼女の目に、高校3年の金森雄司君(17)と高本友子さん(17)、2年の岡田悠輝君(16)は頼もしく映ったようだ。

 「考え方がとても新鮮で、正直で、真っすぐ。同世代の多くの米国の生徒や大人の心をも動かす力を持っている。素晴らしい平和大使だった」

 高校生だけでヒロシマの体験をどこまで伝えることができるのか。送り出す側にも受け入れ側にも、一抹の不安はあった。だが、その不安は杞憂(きゆう)に終わった。3人には、昨年5月の発足時からかかわる「中高生ノーニュークネットワーク広島」の仲間と一緒に、自主的に「ヒロシマ」の持つ意味を学び、議論し、行動を通してそれぞれに考えを深めてきた過程があった。

 原爆の威力や放射線後障害についてどう伝えるか。戦争の加害や被害の問題をどう考えるか。核兵器の廃絶や平和をつくり出すには何が必要か…。広島で生まれ育った高校生らの根底にあるのは、「核兵器と人類は共存できない」という被爆者が悲惨な体験から学んだ考えであり、憎しみを超えて「和解」の必要を説く被爆者の精神であった。

 「核兵器や武力でつくる平和ではなく、対話と信頼で平和を築いていきたい/宗教・人種・言葉の壁を超えて、世界中の人々と手を取り合って行動したい/世界平和実現のためにあなたが今できることを考えてください」。ノーニュークネットワークのメンバーが、核廃絶署名に取り組む長崎の高校生と一緒に、世界中の人々に向け、昨年11月に発した「平和宣言」の一節だ。

 「核抑止力」に象徴される不信と恐怖に支配された世界の現実。その現実を打破すべく変革を求める被爆地の若者たちの純粋な訴えが、核保有国の同世代の心をしっかりととらえたのだ。

 金森君ら3人のワシントン訪問には、ホワイトハウスでバラク・オバマ大統領と会って「被爆地広島を訪れてほしい」との手紙や市民から託された折り鶴を直接渡したいとの目的もあった。その実現はかなわなかったが、高校生と会い、手紙や折り鶴を託された下院議員のデニス・クシニッチ氏(民主党)が、約束通り大統領に届けてくれるだろう。

 「中高生ノーニュークネットワーク広島」のメンバー以外にも、高校生らの積極的な平和への取り組みが目立つ。2月に広島で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)ジュニア会議では、日本の代表メンバー4人に加え、地元の多くの高校生がかかわり、核廃絶や平和へのヒロシマの願いを参加者に伝えた。

 春休みを利用して核保有国フランスの高校を訪ね、原爆被害の実態を発表した広島市立舟入高の生徒たち。米国の大学へ研修ツアーに出かけ、学生たちと平和交流をした私立広島女学院中高の生徒たち。伝え、同時に学ぶ。若者たちの体験は、次のステップへの貴重な糧となろう。

 次代を担う被爆地の高校生たち。彼らの平和への積極的な取り組みは、被爆者を含め私たちに大きな希望を与えてくれる。

(2010年4月5日朝刊掲載)

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