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社説・コラム

IAEA元事務局長 ハンス・ブリクス氏に聞く 核軍縮 歓迎すべき変化

■記者 金崎由美

 18日開幕するOBサミット参加のため広島市を訪れているハンス・ブリクス国際原子力機関(IAEA)元事務局長(81)は16日、中国新聞のインタビューに応じ、世界の核状況について「歓迎すべき変化が生まれている」と語った。

 ―5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を控え、世界的な核軍縮機運をどうとらえていますか。
 核軍縮に関する最近の動きは、実は目新しくはない。軍事偏重だったブッシュ前米大統領の時代が終わり、ブッシュ氏の父が取り組んでいた施策に立ち返ったとも言える。

 しかし米ロが新核軍縮条約に調印し、オバマ米大統領が核安全保障サミットを主催して各国首脳も結束をアピールするなど、非常に歓迎すべき変化がある。NPT再検討会議を後押しする。

 米ロ両首脳は、NPT6条が核兵器保有国に課した核軍縮義務について「拘束力のある義務」との認識を表明している。再検討会議は大成功とまではいかないだろうが、2005年の前回会議よりは楽観的な見通しだ。

  ―北朝鮮とイランの核問題はマイナス要因では。
 北朝鮮問題の先行きは不透明だ。イラン問題はさらに難しい。イランのウラン濃縮は、中東全体を不安定にする。中東を非大量破壊兵器地帯にするための話し合いに加え、再処理やウラン濃縮もない地帯にするための話し合いがあってよい。

 ―世界は核抑止力の束縛から脱却できると思いますか。
 核兵器を減らすには、核による抑止力を通常兵器に置き換える必要がある。強力な米国の通常戦力を考えると、日本にとっての「傘」が核兵器である必要はないのではないか。

 ただし通常兵器の軍縮も肝要だ。世界の軍事支出は1兆4千億ドル(約124兆円)、その約45%を米国が占めると言われている。  現代の脅威は非国家によるテロなどであって、大規模戦争が起こる環境ではない。軍事力レベルを下げつつ、信頼醸成により国家間の不信を取り除き、安全を高めるべきだ。

 ―首脳経験者らが広島に集い、核兵器廃絶を討議する意義は。
 OBサミットのメンバーの多くは、広島への原爆投下時に生まれていた。冷戦と冷戦の終結も体験した。そんなわれわれが核軍縮を再び前に進めようと声を上げる機会にしたい。ヒロシマはそれにふさわしい場所だ。

ハンス・ブリクス氏
 1928年スウェーデン生まれ。同国外相などを経て1981~97年、IAEA事務局長。イラクの大量破壊兵器に関する国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長を務めた。

(2010年4月17日朝刊掲載)

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