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社説・コラム

NPT再検討会議開幕 「核と決別」の一歩に 道筋提示が最大の使命

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 江種則貴

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開幕を迎えた。4週間にわたる討議の成否は、人類が「核兵器のない世界」へと着実に歩みだすスタート地点になるか否かにかかっている。

 核軍縮▽核不拡散▽原子力の平和利用―の三つの柱をバランスよく進めるのがNPTの目的。言い換えれば、核兵器の廃絶は約束していない。完全な条約とは決していえない。

 核軍縮の義務を負う保有国にしても、NPT自体が米国、ロシア、英国、フランス、中国に限定している。持つ者と持たざる者を選別する不平等性は、この5カ国が保有核弾頭をゼロにしない限り、解消されはしない。

 拡散への懸念がやまない近年、NPT体制は崩壊の瀬戸際と言われ続けてきた。原子力の平和利用を進めながら軍事利用には手を染めないために、より厳格なルールとその順守が全加盟国に求められているのは確かだ。悪魔の兵器がテロリストに渡ったり、紛争地で偶発的な核爆発が起きたりする事態は何としても避けなければならない。

 しかし拡散防止は難しい。例えばNPT未加盟のイスラエル、インド、パキスタンの3カ国に、それぞれの核兵器の放棄やNPT加盟を迫る確実な手段は見当たらない。

 そんなジレンマを解決するには、結局、国際社会が一致して核兵器を完全否定することが唯一の出発点ではないか。約190カ国もの加盟国が集う再検討会議は、それを確認し合う場となりうる。

 今回の会議での焦点の一つは「核兵器の役割が低減できるか」とされる。確かに先制不使用(他国に先がけて核兵器を使うことはしない)、法的拘束力のある消極的安全保障(非保有国を核攻撃しない)で合意できれば、核兵器の意味を問い直す契機となる。

 だがヒロシマ、ナガサキを思うとき、核兵器の存在自体を否定しなければ、犠牲者も遺族も納得できない。老いた被爆者が大挙渡米して核兵器廃絶へと声を絞る意味を、会議の全参加国は正面から受け止めてもらいたい。

 核兵器との「決別」をあらためて宣言し、その実現への道筋をきっちり描くのが、今回会議の最大の使命だ。

(2010年5月4日朝刊掲載)

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