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社説・コラム

社説 新安保防衛懇の報告 脅威を減らす努力こそ

 政権交代後の安保・防衛政策は、どんな全体像を描くのか。有識者らによる「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が、菅直人首相に報告書を提出した。今年末に改定される新防衛計画大綱につながるだけに、盛り込まれた提言を慎重に吟味する必要がある。

 懇談会が掲げる「能動的な平和創造国家」という基本目標は、多くの国民が共有できよう。ただ、提言の底流には、戦後歩んだ平和国家としての政策に対する不満が渦巻いているような印象がぬぐえない。

 とりわけ被爆国として、非核はゆるがせにできないはずである。

 報告書は原案で、「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則の見直しを明記していたという。その後、菅首相の堅持方針を受けて「当面、改めなければならない情勢にはない」と付け加えた。

 両論併記となったものの、「一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは必ずしも賢明ではない」となお見直しにこだわる。被爆者団体などが強く反発するのは当然である。非核三原則を順守してこそ、核兵器廃絶の主張は国際社会での説得力を増す。

 武器輸出三原則については「国内防衛産業は最先端技術にアクセスできず、国際的な技術革新の流れから取り残されるリスクにさらされている」と記す。業界の訴えをそのまま反映させているかのようだ。

 運用面ではすでに米国への武器技術供与を例外扱いにし、共同での開発、生産は個別に対応している。平和国家をアピールする上で、解禁への道を広げることは得策ではない。

 専守防衛を支えた冷戦下の「基盤的防衛力」概念を、時代遅れとして否定するのも気掛かりだ。旧ソ連に備えた北海道の重装備を維持するのはもはや現実的とはいえまい。だが、周辺海域まで含めて、多様な事態に直接、対応する防衛力を整備するとなると、過去の軍拡競争と同じく際限がなくなる。

 集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈に変更を促すのも、現状を防衛力強化の障害とみているからだろう。

 もちろん北朝鮮の核・ミサイル開発や中国海軍の東シナ海での展開には、毅然(きぜん)として対処すべきである。

 日本と周辺の安全のためには、米国や韓国と連携を強めながら関係国との対話を重視し、何よりも脅威そのものを減らす努力が必要だ。

(2010年8月29日朝刊掲載)

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